翌日、今度は村の古い書庫へと行くことにした。今度は東の地下にある書庫。どれも古く、本によってはまじないがかけてあったり貴重な資料ばかりだ。近道である薄暗い石畳の通路を抜け出し、市場に出た時、多くの店頭に花が飾られ咲き乱れていた。
圧倒的な数と色にソルトは思わず足を止めてしまった。その存在感と不思議な花の香りうっとりと目を細めてしまった。気のせいだろうか、花が光っている…?
花びら一枚一枚が光を放っているようで、不思議なものを感じる。多くの種類の薬草や植物を知るソルトだったが、これは知らない品種だった。この量なのに、不快にならない香はとても心地いい。どことなく、なつかしくも身近に感じて、思わず手を伸ばした。
「ソルト殿っ」その声にはっとして、伸ばしていた手を止めて振り返った。
そこには一人の老紳士がいた。上等で品のある身なりに、そして聞き覚えのある声。ソルトは記憶の中で照らし合わせすぐに蘇った。
「ミゾさん」そう呟いた瞬間、老紳士は頷くように微笑んだ。
確かにダレンも言っていた。青の国の従者が来ていると。ソルトは蘇るなつかしさと、突然の再会に驚きながらもお互い歩み寄って、抱擁しあった。
「ミゾさんっ」ソルトはすっかり皺を増やしながらも、あの時と変わらない笑みを携えるミゾに涙が出そうなくらい、感激した。
そんなミゾは「本当にお久しぶりで。もう美しい女性で。もうあなたを間違えることはないでしょう」と言った。ソルトは少し照れながら、当時青の国に訪れた時、ミゾはさっそくとばかりにソルトの性別を間違えた事を思い出した。本当にあの時の自分は酷く憤慨していたけれど、今振り返れば確かにあの頃は少年のようだったと自覚している。

ふと、あのソロモン王子が脳裏に過ぎった。きっともう今では結婚もしているだろう。
そう尋ねれば、ミゾは頷いて答えた。「お父上であった陛下が引退なさり、今はソロモン王となっております。そして6年前に結婚され、今は2児の父親です」
ソルトはそれを聞くとミゾの手を取って「おめでとう」と祝福を送った。(もう、そんなにも変わってしまったのね)
ソルトは何度も言って、まだまだ先生と狼とで旅を続けていた頃を思い出した。
ミゾは礼を述べるとソルトの傍できょろきょろと周りを見渡しながら、「先生と、あの狼は今はどちらに?」と尋ねてきた。
ソルトは種を返すように短く頷いて「今はもう一緒ではないんです」そう言って微笑んだ。一瞬漂った雰囲気をすぐに察知したミゾは慌てて濁すように違う質問をしてきた。
だがミゾが気を使う程のことではない。先生と別れたのは『独り立ち』だったのだから。
はにかみながらソルトは事の経緯を話した。だが、狼の事は言わなかった。


「そうですか、本当に月日は長いものですね」ミゾはそう言って深く刻まれたえくぼにはすべての優しさと気遣いが見えた。話終えれば、ミゾは納得したように頷いた。その様子を見てソルトもミゾの周りを見渡した。
「今回は何故この村に?」そう尋ねるとミゾは「ソロモン陛下の使いはもう引退です。今回は私と数人の部下でこちらに外交のしるしに花の種を贈りに来たんです。この村は小さくはありますが、王家、まじない師の間では有名な土地であり知恵と掟の村です」ミゾはそう言うと、ほら、と市場の店頭にいくつも飾られている花を指した。
どうやらあの珍しい花は青の国からのようだ。でも確かに見惚れてしまう花であった。
なるほど。美しいはずだ。ソルトは見惚れるように花を見ていた。
ミゾはその時、目じりに慈しみの皺を寄せて「この花の名前をご存知ですか」と尋ねてきた。
ソルトは首を振って床に落ちた花の一つを掬い見た。形や色に香り、どれを見ても珍しく思い当たる節はなかった。するとミゾは意外そうにして花の名前を教えようと口を開いた。
「この花の名は「ソルト!」ミゾの言葉を遮ったのは、ダレンだった。
ソルトは何事だとばかりに、自身を呼んだダレンの方を見た。彼のいつもの陽気な雰囲気は消え去り、何か急いでいるようで、息を乱している。
ダレン片手を振って、「まじないの婆さんが呼んでる」と叫んだ。それを聞いたソルトの目を急に鋭くなり、こくりと頷いた。「わかった、今行く」
そう返事をしてミゾへ向き直った。「ごめんなさい、今から行かないと」するとミゾは、「大丈夫ですよ」とはにかみながら首を振り「早く行ってください」と促した。
ソルトは礼を述べて「また戻った時、会いましょう。まだこちらには滞在するんですか?」と聞いた。ミゾは「ええ、まだしばらくは此処に滞在します。大丈夫、村は狭い。落ち着いたら噂ずてにも会いに行きますぞ」そう言ってくれたので、ソルトはもう一度(ありがとう)と言って短い挨拶と共に、その場をダレンと共に離れた。






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