翌日、ソルトと狼は村を歩き周った。そして作って置いた薬をお金に買えて、旅支度に必要なものを買い揃えていた。旅暮らしをしていれば、貴重な薬草にも出会えるので、良い薬もできる。なので十分な調達が出来た。それになんて言っても師匠直伝のおかげだ。
まじないは相変わらずだが、植物を愛でることは出来る。まじないとは、不思議だ。腐りかけの球根でもソルトが撫でれば、たちまち芽を出す。この『育てのまじない』だけでも、十分に渡っていける。
いつだって掠める先生の後姿を思い出し、ぎゅっと拳を握ってぷるぷると頭を振った。
今はもう、悲しむ時ではない。立ち進んでいかなければならない。
大丈夫。私は独りじゃない。


ソルトは狼と村を見回りながら、祀られている石像に目を向けた。確かに、狼が言ったようにあちこちと置いてあった。しかもそれが読めるソルトは少しずつだが、その内容を熟知していく。そこにはシヴァ神の事が綴られていた。シヴァ、確かジェーンの村の遺跡にも記されていた輪廻の神。この村の奥にはシヴァの神殿が作られているようで、そこにはシヴァがいる冥界へと続く泉があるそうだ。なんとも物騒だが、死者しか入水できず、生きている者が入れば魂を持っていかれるみたいで。なのでこの村の泉は神聖視され、掟に従い、生人が入ることを禁じているそうだ。像の下にはたくさんの色とりどりの果物が捧げてある。ソルトはまず、昨日ダンという男が言っていたまじない師に会いたいと思った。村人に話を聞くが、どうにも警戒心がひどくあまり話しを聞けなかった。そこで狼が鼻をぴくりと動かして目を細めた。その反応を見逃さなかったソルトは「どうしたの」と尋ねた。
「昨日の、子供の匂いだ」
それを聞いたソルトは、「どこ?」と辺りを見渡す。
「いや、ずっと向こうだ。おい、まさか」「決まってるでしょ」
ソルトがにっこり言えば、狼は予想通りだとばかりにため息をついた。なんでも厄介ごと、気になることにはあえて突っ込んでいくソルトの性格はもう熟知していた。そんな狼の思いとは裏腹にソルトは拳を握り、不適の笑みを浮かべていた。
(不幸の子 上等じゃない。なら自分から会いに行く)
進んでいくうちに見つけたのは子供の集団だった。何やら楽しげにはしゃいでいる声だったが、ソルトは木々の葉っぱを避けながら見た光景に足が止まった。それは、昨日会った少年。くたびれた服装にか細い体。ダリアは尻餅をついてる。それを少し離れた所から、村の子供達が笑いながら石を投げている。

ソルトの髪がさらに赤く燃えた。気づけば走って、ダリアの前に立った。
「何やってんの」
突如と現れたソルトに子供達は驚き、「ひぃいい」と持っていた石を地面に落とした。そして後からやってきた狼を見れば叫び声を上げて一目散に駆けていった。ソルトは、そんな子供らの後ろでべえ、と舌を出して、眉を顰めた。
一方自分を見て逃げていった子供らを見た狼は「どういう意味だ」と憤慨しながら(人間なんて喰うか)と唸りながらその体を少年へと変化させた。

「昨日会ったよね」ソルトはそう言ってダリアを見て、手を差し伸べた。ダリアは昨日と同じように何故、という目でソルトたちを見ている。そんな少年の周りには蒔きが落ちていた。狼少年はそれを拾い上げてダリアが落としていた籠に入れる。
「偉いね。ダリアは働いてるのね」
ソルトはそのか細い手のひらを見た。蒔きを一人でかき集めたのだろう。まだ子供の手なのに豆がたくさんついている。「これしかないんだ」ダリアはポツリと零した。
そう、ダリアにはこれしかない。文字もわからず、村の外も知らず、何も持っていないダリアはその体自身がすべてだった。
「なら薬草を教える。お金をやることは出来るきけど、ダリアの一生を助けてくれるのは知識よ」ソルトはすぐさまダリアの気持ちを汲み取ってすぐに答えた。そして思いっきりその小さな頭を撫でた。(放っては置けない。この旅で一人でも多くの人を救いたい。かつて先生がそうだったように)
その時ソルトの言葉を聞いた狼はあまり良い反応ではなかったが、結局ソルトの意志は決まれば固いものだと知っていたのであまり口を挟まなかった。だが思いっきり顔を顰め、面倒くさそうに長いため息をついて、(これだけは言っておく)と狼はそれこそきっぱりとソルトに告げた。
「あまり深入れはするなよ、所詮他人なんだ。これまでは良かったが、全ての人間を助けられるなんて考えはやめておいた方がいい」
ソルトは、ふーんだとふて腐れたように、流していたが狼はわかっていた。
以前はソルトの師がいて、彼のその知識や経験や人格がカバーをしていた。そしてそれが上手く解決へと導き、だからこそ彼は多少の人助けもしていたし、諦めも知っていた。
だが、どうもソルトは違う。会った人、会った人の事情に首をつっこむのが得意だ。だが、師がいない今は違う。そんな狼の考えを知ってか知らずか。
ダリアはもちろん、心底ソルトに懐いた。最初は遠慮もあり、なかなか受け入れられるのに時間は必要だったが、ソルトの持ち前の明るさによりすっかり姉弟のようになっていった。
もちろん案の定滞在日数も長くなり、ここで住むんじゃないかと思わせるほどソルトはダリアに薬草を教えるのに夢中になった。






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