もちろんユーリとの間で話した内容をジェーンに伝えることはなかった。ソルトは何も聞かなかったように接し、それまで以上にジェーンの事がどこか―少し羨ましくも感じだ。
温かい場所で綻び、守られ育ってゆく彼女はきっとモービル団をさらに盛り上げる一輪の花になるだろう。
それからしばらく滞在している間、モービル団へ通ってはこの村を隅から隅まで楽しんだ。
この旅では多くの人に出会うけれど、別れは必ずきてその先を見届けることは出来ない。
仲良くなればなるほど、つらくなるのだ。エヴァンの時だってそう。
「もう、そろそろ次の地へ行くよ」その師の言葉を胸に、別れの準備をした。


モービル団にすっかりソルトはお世話になったので、先生はジェーンやユーリさんに挨拶をしていた。先生はずっと調査で忙しかったので、発つ日が初めて会う日だった。それにしても、会ってすぐに別れるなんて、その日暮らしの私達らしい。
まじない師だという事は伝えていたので、すっかり打ち解けたようにジェーンやユーリと話を交わしている。そして一通り終えると、先生はジェーンやユーリに礼を言って「幸運を」とその村に伝わる古い言語で返した。
それを聞いたジェーンは目を輝かせながら、「すごい、遺跡に刻まれてたものね。さすが、ソルトの先生ね」
そして、ジェーンはソルトに歩み寄り、抱きしめあった。ジェーンの視界にかすめる赤い髪がきらきらと光に反射して、それでもどこか、せつない暁色。それを、もう見ることが出来ないなんて。
「寂しい…」ジェーンはそう呟いてソルトの燃えるような髪を見ていった。
「【赤】はこの村では命を差しているの。だからこの村の伝統のものは赤色のが多いの。その赤を纏ったソルトはきっと太陽ね」
無邪気に言って握手をした。そして隣にいた狼を撫でて(さようなら)と伝えた。
結局ジェーンは狼の正体を見てない。本当にただの犬かと思うほど大人しい狼がちょっぴり心配だ。でも、本当に良い兄妹だと思った
「そしたら、行こう」先生はそう言って私を呼んだ。返事をしてジェーンを始め、ユーリに手を振った。一通り手を振った後、ソルトは前へ向き直り足を進め、隣で歩く師に気になっていた事を尋ねた。あの日、『今度は彼女がいない時に聞いてみるといい』と言った真意を。
「先生はわかってたんですか」全て、と言葉にする前に先生はこう答えた。
「いいや、だが結論の前には必ず過程がある。人にはそれぞれ事情があるんだ」先生はそう言って目を閉じたまま言葉を続けた。
「お前はそれを読み取る訓練をもっとした方がいい。だが、時々誰よりも鋭くなる」そう言ってソルトの旋毛をひと撫でした。よくわからないがわかる気もする。ソルトは返事をして先頭を切って歩く狼の元へ駆け寄った。
「今回はアンタの出番何にもなかったね」と、ふふんと狼へこぼして妙ににこにことしているソルトに狼は獣姿ながらも顔は呆れたように歪ました。
「お生憎さま。お前もだろ」そう言ってぷいっと前を見た狼に、「ちょっと、ご主人様にその口の聞き方はないでしょ」ソルトは小袋からミニハンマーを取り出した。
「俺は犬じゃない」不毛なやり取りの中、一匹と一人はその場を駆け巡る。無視して前身していくまじない師に続きながら、その村を後にした。
今回、寄ったモービル団。
そこで過ごした中でソルトの胸の内に小さい時に置き去りにしたはずの、家族というキーワードが再び胸を焦がすように揺れていた。二人の兄妹。その姿は確かに、本当の家族だと、ソルトは思った。
(かおり りょう)
突如として蘇った、ジェーンの言葉に顔を振った。
あれが何のシーンでさえわからないが、気にしても仕方がないだろう。
そう、私は、私なのだから。それに私は今が良い。狼を追いかけながら、そう思った。


ジェーンはのちに美しい踊り子へとなり、モービル団をさらに盛り上げるようになる。
だが、ソルト達がもう一度モービル団に出会うことはなかった。そして、運命はすでに始まっている。






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