ソルトはエヴァンのおでこに濡らした布を置いた。閉ざされた瞳は時々魘され、瞼をぴくぴくと動いている。表情も蒼白で、唇はどんなに温めても赤みが戻ることはなかった。
そんなエヴァンはソルトたちが滞在していた宿屋の前で倒れていた。(絶対にあのモースがエヴァンに何かをしたんだ)ソルトは拳を強めた。何があったか聞きたいけれど、エヴァンは目を覚まさない今、理由を聞く状況でもない。ソルトはあの時、エヴァンを一人にしてしまった事を後悔した。

そんなエヴァンの様子を見に来た先生が、その血色の悪い唇を見て懐からハーブのエキスを垂らした。すると少しずつ赤みが戻って穏やかな寝息になったが相変わらず蒼白である。後からやってきた狼が鼻をならしながら、部屋の影を通った同時に少年へと姿を変えて不快げに眉をひそめた。「あの男の匂いだ」そう言って今だ眠るエヴァンを見た。
「どうやら、足らなかったようだね」先生がそう言って狼を見れば、彼はフンとばかりに
鼻をならし、すぐにその表情が唇を上げるようにしてソルトの方へ顔を振った。「今度は私がやるわ」ソルトはその目を鋭く吊り上げて鼻息を荒くして腕をまくった。
ほらな、とばかりに狼が言えば、先生は「まあ、その前に彼女の眠りを良い夢へ変えよう」そう言ってエヴァンのおでこの指を置いてブツブツと何かを唱えた。そしてそれと共に、エヴァンのぴくぴくと動いていた瞼が静止し、頬が桃色に全体の血色が戻っていった。
「さて、じゃあ何があったか聞こうじゃないか」先生はそう言って、エヴァンの耳元で何かを呟いた。すると共にエヴァンの指がぴくりと動き、そのおでこから光の球体を放った。先生はそれを掴まえるように指でしゅっと弧を描きソルトへ向けた。

ソルトはゆっくりと瞼を閉じた。そこにはエヴァンの叫び、憎しみ、怒り、喪失、すべての想いが断片的に映像化され、頭の中へ流れ込んでいく。エヴァンは暗い闇の中独りっきりでまるで子供のようにその地面を叩いていた。そして、(もう、死にたい)
エヴァンの本心がふわりと最後に、それは枯れ果てた花のように落ちた。






雨が降っている。エヴァンは目をうっすら開けた。どうやらベッドの上のようだ。ふかふかな布団と暖かい部屋。ベッドの横では、まじない師であり、ソルトの師である青年が座っていた。その横で優しい音色を奏でるハープが独りでに動いている。エヴァンは目を瞬きして、その光景に魅入っていた。それに気づいた青年は「ああ、良い音色だろう。ソルトはこれを聞けばすぐに眠るんだ」そう言えば、いつものソルト、とあの少年もいない。二人は、と声をかける前に止められた。
「大丈夫。彼がついてるし、じきに雨は止む」
静かにそう言って、窓越しに降る雨を眺めながら微笑んだ。






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