それから、よりいっそう香は遼の診療所へ来るようになった。患者として、診察を受けに行くだけではなく毎日のように遊びに来た。
元々プライバシーなんてないこの診療内科で、香はあっというまに人気になった。
世話話しをしにくる患者は「これは、りょーちゃんとさゆりちゃんに。あと、これは香ちゃんに」
菓子や果物を持って来る。
トメさんのお孫さんだということはもう周知されているので、それはそれはと可愛がられる。
トメさんはそんな様子を嬉しそうに、
「りょーちゃん。香ちゃんがね、明日もりょーちゃんとこ行くって」
えーもっこり美女だったら良かったのになあ、なんて言いながらも、遼は香がひょっこり顔を出せば、当たり前のように迎えて、すっかり香専用になった椅子に座らせて、いつの間にか患者さんも相まって談笑会になった事もある。

さゆりがいつのまにかお茶を用意して、大宴会にもなったりした。
わいわいがやがやと、盛り上がる中、香はさゆりに淹れてもらったミルクティーを口に含ませている。ほっぺを染めている表情は微かだが、微笑んでいるように見えたのは気のせいだろうか。





この町の夜空はわりときれいだ。都会よりかは、遥かに見えやすくてなんと言っても空気が良い。トメさんは家にいて、香の帰りを待っている。遼はすっかり日が暮れて夜になったので香を送りに行った。
すっかり遼になついた香はぎゅっと遼の後ろで白衣をくしゃくしゃになるほどに引っ張って掴む。そんな姿を見ては、何も言わずに話をする。香は頷きながらついてくる。
それでも少しずつ元気を取り戻していっている。時々、トメさんと買い物をしている姿を見る。
その時、香が祖母を気遣って荷物を持って歩いてる姿を見た時は、思わず立ち止まって魅入ってしまった。時々、遊んで駆ける同年代の子供を見ながら、惚ける香の後ろ姿はなんともいえない。今は療養として学校も休んでいる。香はまだ両親の死も兄の死も、事実として告げられていない。
でも、なんとなくも…香はもう気づいているんじゃないかと思っていた。

紺色に染まった空の雲は風が強いせいか流れが速い。月がまんまるにぽかんと浮かびながら優美に佇んでいる。香はそれを時折眺めながら、どこか恋しそうにいる。
「あ、」
その時、つうーとたまたま見ていた時に流れ星が伝った。香も見ていたようで、その星がきらりと落ちた時、ぎゅっと握っていた所がぐっと強まった。
運がいいのかもしれない。香が何かを、乞うように眺めているのを見た時、白衣に突っ込んでいた手に何かあたったのに気づいた。
それは、確か…

「かーおーりーちゃん」
遼はポケットから両手を出して、ぱっと香にその手を見せた。何もない。
裏表と手をひらひらさせて、すっと空中を片手に夜空に向けた。そして次に見えた星が、流れた瞬間を見計らって、星が散らばる空を掴むようにした。
香は遼を不思議そうに見ている。
そしてそれを両手で重そうにそっと抱えるように、香の前で屈んで、ぱっとその手のひらを開けた。あるのは星―ではなく一つのガラス玉。
それでも何か特別なものだと思ってしまうほどの不思議な光彩を放っている。
(駄菓子屋で当たったやつなんだけどな)
ただの子供だまし、もっとも香は小学生だから、これくらいのタネはわかってしまうだろうが、…たまにはいいだろう。
絶対今ここに、さゆりが入れば「柄にもない!」と笑われるだろうけど。

香は食い入るようにそのガラス玉を見つめ、両手を出して受け取った。
そして、それをいつまでもいつまでも眺めていた。







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