そうして連絡通りに、2時にトメさんは来た。
その後ろに、手を繋いだ、小学生の女の子。
―槙村 香

遼がいつものように診療所でトメさんを迎えれば、
「ああ、遼ちゃん」トメさんは嬉しそうに、少し涙ぐんだ。
そうしてトメさんお後ろでパッと目に入った少女。歳の割りに少し背が高く見えて、くせっ毛だろうか、茶色の髪は短く少しはねている。
瞳が不安げにぱちぱちと瞬き、吸い込まれそうな程ぱっちりとしているが、魅力的に見える。まだ小学生だが、目鼻立ちはすっきりとして整っている。
さゆりはそんな香に目線を合わせるように膝をおって、「こんにちは」と白衣の天使ならではの優しい笑みを浮かべた。香は出ない声の変わりに、こくんと頷いた。

遼は、小さな町の診療所。それも心療内科で開業している。といってもここ2、3年に出来たばかりである。
だが、診療所自体は昔からあり、遼はそれを受け継いだ形にある。それは遼の両親ではなく、伯父である海原神からである。遼は小さい頃両親が離婚して、様々事情により伯父である海原が引き取った。
海原はこの町でも有名なほど、腕もあるが信用にも情にも厚い医師であった。
強制をされたわけでも、無理強いするわけでもなく気まぐれで、てきとー人間であった遼はその影響を少なからず受け、医師免許を取った。
のらくらりとした遼だったが不真面目の割には学生時には成績がよく、女の子にはめっぽう弱い癖に、近所のお年寄りからは「りょーちゃん」と親しまれ、いつのまにか町でも評判になっていた。
そんな遼が、伯父の診療所を受け継ぐことになったのも、また普通の診療所ではなく、大学病院での研究やメスを選ばなかったのには…――それはまた別のお話である。

看護師のさゆりにパワハラをするのは当たり前だが、遼は確かに医者だ。
不真面目だが、腕はある。もっとも軽い男だが、技術や医療術と脳みそは尋常じゃないほどよく回転する。
ま、心療内科なので、そう重症な患者さんが来ることはないのだが。
それでも今回は珍しい患者さんだ。
年配やお年寄りの患者さんではなく、まだ小さな未発達の心と大きな傷を抱えた…もっこり患者ではなく、かわいい少女なのだから。

声は発しず、頷く女の子、いつもなら少し、またもっこり患者じゃないとか駄々をこねる遼だが、
「初めまして、香しゃん」
その大きな手で、小さなつむじを撫でた。







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