それからリョウはよく此処に現れるようになった。最初は「また迷ったの」そう尋ねれば、遼はまたつんとしたように(ふん、俺が迷うわけないだろう)そう言って腕を組んだ。彼は王子様ではなく王様だ。さんざん私のことをばか呼ばわりして帰っていったのに―私は首を捻って「ならなんでこんな所にいるの」こんな険しい森の奥。それこそ上等な衣を汚れてしまう。お金持ちの人が寄りたがらない場所。そんな疑わしげなカオリの視線に気付いたリョウは「追いかけられて来たんだ」と答えた。
そして「俺はお金持ちの子だからさ」と付け足した。私はそれは大変とばかりに「誰に?」と尋ねれば、リョウは一瞬と惑ったかのような表情になって視線を地面に落として、俯いてしまった。指さきが動いて何か思案しているのだろう。私は聞いてはいけなかったのかと思って覗き込もうとしたら、「…うさぎに!」と叫んだリョウが顔を上げた。私はびっくりして、両手に持っていた花を落とした。だけどリョウはそんな事はお構いなしに、しきりに自分の服の端を引っ張って「ほら、ここを噛まれたんだ」とか言っていた。

「ほら、ここも引っかかれたんだ」
「……」
「ここも、汚れてるのはそのせいだ」
「……」
「あれはとても凶暴で、野生のウサギだ」
「…そう」
(でも、小さなウサギがそんな高い位置を噛めるわけないわ)なんて、言えるわけもなく。カオリはそのリョウのその変な嘘に付き合った。だってあまりにも一生懸命だったから。カオリは一生懸命ウサギに襲われたと説明するリョウに向かって「お気の毒に」と言った。私は生涯一の女優になったつもりだったけど、この後、リョウは私の返答に納得しなかったようで、大げさに「本当なんだぞ!」と夕暮れまでウサギの話を聞かされた。







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