カオリ。その名を付けたのは緑色に光る妖精だった。そしてその名と共にある意味をも込められた。それは細かく煌びやかに灯る小さな魔法。銀の粉を振りまきながら妖精はその意味を与えた赤ん坊、カオリを見て言った。

(あなたは人を愛すでしょう)
(すべての人々に優しく、身を捧げるでしょう)
(辛く暗闇の中で、いつまでも歩かされます )
(そして、… )            

草花をかき分けながら木の実を拾った。指先で摘んで虫に喰われていないかを確かめて籠に入れる。何度も繰り返しながら、時々息をついて同じ動きをしていた手の力を抜いて和らげるように関節を回した。
ずっと地面を向いていたから首が重くて固い。ぐるぐる回しながら伸びをして、土と木の匂いがするこの場所の空気をめいいっぱい吸った。ちゅちゅと鳴く小鳥の囀りを聞きながら鼻歌をした。
ぷちぷちと草を千切っては実を見つけて薬草も一緒に採っていった。一息つこうと泉の水を掬って口元へ運んだ。唇から伝う水は髪を濡らして服にぽたりと落ちた。
底まで映る泉の透明度に重なるように私の顔も映った。丸い顔と短い髪。目が不思議そうに瞬きをしながら覗いている。鼻はちょうど真ん中にちょこんとあって、私はみんなが持っているパーツを持っているのに。ほんの少し変わっていた。
それは瞳がペパーミントの色をしているから。濡れた手でそっと頬から瞼へ指を滑らした。私の瞳はペパーミント。反射で時々黄色や黄緑にも煌く。私はこの瞳が心底、嫌いだった。

ある日、いつものように花や木の実を摘んで遊んでいたら、野原の向こうに誰かがいた。私は膝を持ち上げてスカートを払った。手に握っていた花を籠につっこんで目を凝らした。そこには草だらけになった男の子が―。その子の服は上等そうで、綺麗な色をしていた。まるで昨日私が読んだ本に登場してきた王子様のように。
その子は黒い髪を払いながら、呆然と立っていた私を見た。はっとしたように動けなくなる。その子は鋭く私を睨みつけるようにずんずんと大股にこちらへ来た。
私は足がすくんで動けなくて、ただその子にこの奇妙な瞳を見られるのは嫌だったので、前髪で隠れるように俯いて顔を伏せた。近づいて来るのと同時に少年の顔立ちがくっきりと見えてきた。瞳は黒。肌も白い。きっとお金持ちの子なのだろう。
ちょっと見上げて、見れば見るほど洋服には品があった。
ずんずんと私の前に歩いて来て、よりいっそう目を合わせないように視線を斜め下に落とすと、そんな事にはかまわず、その子はまるで王様のように言い放った。
「ここはどこだ」
私はこの瞳のことを言われると思っていたので、驚いてポカンとしてしまった。するとその子は眉を吊り上げて少し、いらいらした様子で「此処はどこなんだ」とまるで召使い言うかのようにもう一度言い放った。
(何、この子)私はおそるおそる答えた。
「西森の3つ目の泉にある野原「違う。地図でいうと、どの地域になるんだ」
(名称を教えろ)
地図。私は首を振った。だって私は詳しい名称なんてわからないのもの。そのままその事を伝えれば、男の子はふんと鼻を鳴らして呆れたように言った。「お前、ばかだな」








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -