異なる視線 バタン、と静かに扉が閉められる。 金田一はついさっきまでそこにいた人物のことを思い浮かべた。 「明智さん、さっきの一体どういうことだったんだよ。トリックノートがどうとか、ただの世間話にしては何かギスギスしてたようだけど」 「少し気になることがありましてね」 「それはミョウジさんに詰め寄ってまで聞くほどのことなのかよ」 けっと金田一は吐き出すように顔を歪める。彼女はただ自分を心配して様子を見に来てくれただけなのだ。まあ、少々はしたないところを見られてしまったみたいだが。そんな彼女に容赦なく畳かけた明智に彼は少なからず気分を良くはならなかったのだ。美雪もそれは同じみたいで微妙な顔つきをしている。 すると明智は少し思案した後、言いづらそうに切り出した。 「いえ、ただこの一連の事件……動機の面からみると一番の容疑者は彼女だ、ということになるんですよ」 「え」 一体この人は何を根拠にそんなことを言ってるんだ。金田一と美雪はお互い顔を見合わせる。 「そうですね、その話をするには近宮玲子と会った六年前のことを話しておく必要がありますね」 そして明智は話し出した。六年前、近宮玲子との間にあったすべてのことを。そして彼女が事故死した後の不可解な点などと一緒に。そして、彼女のトリックノートは左近寺たちに奪われたのではないかという推測。 話を聞き終えた金田一はなるほどねー、と一人相槌を打っていた。 「じゃあ、今回の犯行の動機は五年前、近宮玲子を殺した奴らへの復讐かもしれないってことだろ」 「でもそれだけでミョウジさんを犯人として決めつけるのはちょっと早計すぎるんじゃ……」 「彼女は近宮玲子本人が認めた優秀なマジシャンです。まあ、本人は少々自信が欠落しているみたいだが。私の目から見ても、近宮玲子とミョウジナマエはとても強い繋がりを感じました」 「なーんか、明智さんにしてはらしくないっていうかなんていうか……」 金田一は手を頭の後ろで組み、何か考え込んでる明智を見やる。そういえばこのホテルに来た時からも様子がおかしかった。 友人の死が絡んでるからだろうか。金田一はうーんと唸る。 「まあ、この犯行を抜きにしてもミョウジナマエはトリックノートについて何か隠してるようでしたし今後も少し目をかけておきましょう。首の包帯の件も気になりますしね」 「それはさっきマジックの練習中の事故みたいなこといってたじゃん」 「マジックの練習の事故ならばそれは擦過傷か切傷または火傷。切傷ならまだしも擦過傷ならガーゼ一つ二つで事足りますし、よほど大きな切傷でない限り首を何周もぐるぐる巻きにする必要はない。あと考えられるのは火傷ですが、首全体を覆うほどの火傷をしたのならすぐに病院に行くべきですし、今頃ちょっとした騒ぎになっていたでしょう。だけどそんなことは何一つなかった」 「じゃあ、明智さん。ミョウジさんのアレはいったい何なんだよ。嘘を吐いてるって言いたいのか?」 「否定はしませんが」 たかが首の包帯だけでそこまでの推理を披露する明智に金田一はやはり気に食わなかった。彼女の首の包帯について嘘を吐く理由なんてないと思ったし、だったらなんで包帯なんてしてるのかと言われても答えられないからだ。今、金田一の頭には答えに導けるまでの道筋がない。 いつものようにいけ好かない明智をじとりと睨みつけながら、金田一は考え込んだ。 「そんな顔しないでくださいよ。あくまでも動機の線で疑うなら、です。それ以外にも気になる人物が一人います」 「動機、ねえ……」 「ですがこれはまだ推測の域を出ない話ですし、私自身確証がないのでなんとも言えませんが」 「でも俺…ミョウジさんが犯人とは思えないんだよなあ。ミョウジさんが犯人だとしたら、俺が殺されかけたって聞いただけで血相変えて俺の部屋に飛び込んでくるとは考えにくいんだよ」 金田一は天井を仰ぎ見てポツリと漏らした。これも根拠のないただの憶測だけど、金田一は強くそう思った。それには美雪もうなずく。 「なんだか私が悪者みたいですね」 明智はそんな二人にやれやれ、と小さく息を吐いた。 |
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