それを愛だと言うのなら

列車に爆弾を仕掛けたと宣言した割に、その列車は爆弾によって爆発はしなかった。
あったのは大きな花火のようなものと大量の薔薇の花吹雪。

「きれい…」
「ナマエさん?」

あまりの光景に不謹慎だとは理解しているが、思わず口から零れ出てしまった。私のその言葉に横にいた遙一が変な顔をした。

「あ、いや、これはその……っごめん。不謹慎だったね」
「ううん、そんなことないよ。僕もナマエさんと同じこと思ったし」
「ほんと?」

少し場違いな発言に引かれたのではないかと不安になったが彼の返答にほっと安心する。
マジックのようにひらひらと舞う薔薇の花びらを掴むように私は手を伸ばした。爆弾とか何とか騒いでたけど、案外地獄の傀儡師とやらは酔狂な奴なのかもしれない。
未だ降り続く薔薇に目を向けながらそんなことを思っていると遙一からの視線を感じた。変な顔をしていただろうか。心配になり顔をぺたぺたと触り確認していると遙一は言った。

「まるで真っ赤な血のようですね」
「へ?」

彼の手が私の頭に触れる。くすぐったさに身をよじるがそれは数秒のことだった。
離れた手には真っ赤な薔薇の花びらが一つ。髪についてたんだ。とってくれたことに感謝する一方で私は言い知れぬ違和感を感じた。
なんだろう。一瞬、遙一が遙一じゃなくなったような。雰囲気が変わったようなそんな気がした。



その後、騒ぎはいったん落ち着いたかのように見えたが、これだけでは終わらなかった。
我が幻想魔術団の団長である山神団長が死体となって発見された。だけど、その団長の死体は私たちが1.2分、目を離した隙に消えてしまったのだ。
異様な空間に異様な出来事。まるでマジックを見ているようなそんな気分にさせれる。

「んー、やっとついたー!」
「すみません、その荷物も一応検査させてもらいますね」
「あ、金田一君。やっぱり名探偵って話はほんとだったんだねー。刑事さんたちと一緒に捜査してるなんてちょっと感心しちゃった。荷物ならどうぞどうぞ、好きに調べちゃって」
「いやいやー。じゃあ、失礼して」

ごそごそと手際よく、私の手荷物を調べていく金田一君。別に見られて困るってものはないけど、やっぱり自分の荷物をじっくり漁られるっていうのはどこか恥ずかしいところがあるね。

「そういえば、ミョウジさんって高遠さんと親しいんですか?」
「え」
「あ、いや、盗み聞きするつもりはなかったんすけど偶然、ミョウジさんと高遠さんが下の名前で呼び合ってるのを聞いちゃって。てっきりそういう仲なのかなぁー?って」
「ふふ、まあ別に隠してるってわけじゃないけど、なんか少し照れくさいなあ」
「へえ、じゃあやっぱり!」
「うーん、多分そういうのだと思うけど、あんまり分かんないな」
「分からない?」

あ、金田一君があからさまにどういうことだ、という顔を浮かべた。まあ、大体はそんな反応だよね。でも、その表情を一番したいのは私だったりして。
そう、私と彼の関係はひどく曖昧なものだ。彼がマネージャーとしてこの幻想魔術団に入団してきたとき、どこか惹かれるものを感じた。多分、一目惚れだったんだと思う。そこから隙を見ては話しかけて、どんどん仲良くなってそして私から告白した。
心臓が壊れるかと思うくらいどきどきして、私の告白に彼が答えてくれた時は夢かと頬を赤くなるまでつねったのは昨日のことのように覚えている。覚えているのだけれど……。
確かに遙一は私の想いに応えてくれた。だけど実際、私は彼から好きだと言われたことはない。そう一度だって彼が私への想いを口にしたことはないのだ。
遙一は本当に私のことが好き?素直にイェスと自信を持って言えない自分自身には失笑ものだ。これではまるでピエロではないか、と。
だけど、私がこの関係に疑問を持ったのはこれだけじゃなかった。それは薔薇の花吹雪を彼と見たときにも感じた違和感。
遙一にはいつもの優しいあの雰囲気ががらりと変わる瞬間がある。それは本当に突然のことで、今まで見てきた彼が偽りであるかのような錯覚に私は戸惑ってしまう。そして時折鼻を掠める薔薇の独特な香りに不安が募るのだ。
結局、彼に問いただすことができないままずるずるとここまできたけど、最近遙一のことを信じることができない自分がここにいる。
いったい、なんなんだろうね。わたしたち。

「ま、大人には色々あるってことよ」
「はあ…」
「金田一君はあれでしょ。美雪ちゃんでしょ」
「は、はあ!?ち、違いますよ!アイツはただの幼馴染で……っ」
「むふふ、そういうことにしておいてあげる」

そう二人で和やかに話していると、向こうから金田一君を呼ぶ声。あの声は剣持さんかな。金田一君は助かったとでもいうように、私に一言挨拶をして剣持さんのほうへ向かった。
うーん、なかなか素直な子だなあ。私は遠ざかる彼の背中を見つめ、くすりと笑った。
×