彼の生きる理由になりたい

あの薔薇のサラダが爆発した一件があった後、私たち乗客は全員列車から避難するようにと伝えられた。どうやら、金田一君が言っていた『地獄の傀儡子』というわけの分からない輩が薔薇のサラダと同じように、この列車にも爆弾を仕掛けたと言うのだ。
なんていうことを。乗客が全員逃げていく中、私はある一つの背中を探した。

「よ、遙一!!」
「うわ、ナマエさん!」

そして、大勢の人並みの中に大きな荷物をたくさん背負って歩く彼の姿を見つけ、思わずその背中にダイブした。
彼は一瞬、その衝撃にぐらりと体を傾けたがそこは男性の体。いくらひょろりとしていても、しっかりとその衝撃を受け止めた。
けれどたくさんの荷物がある分、彼も少し苦しそう。あはは、ごめんなさい。

「ど、どうしたんだい!? 早くナマエさんも逃げないと」
「ごめんなさい。でも薔薇のサラダが爆発した時、私その近くにいたから怖くて。けど、遙一の姿見て安心した」
「すみません、ナマエさん」
「どうして遙一が謝るの?おかしーの」

私はくすくす、と笑いながらギュッと遙一の細い腰に手を回す。女子の私からでも羨ましいとさえ思う、その細さの割に体はがっちりとしていて。やっぱり男なんだなあ、と改めて感じてしまう。そしてぐっと距離が縮まった分、香ってくる彼の香りにひどく安心した。
彼はそんな私の手を振り払うことをせず、ぎゅっと握り返してくれる。ああ、あったかい。

「ナマエさん……」
「なあに?」
「そろそろ避難しないと」
「あ」

遙一のおかげですっかり安心しきってしまった私は今おかれている状況まで頭からすっからかんに忘れてしまっていた。これはもう恥ずかしい。
そうして急いで二人で避難して、夕海さんたちが揉めているのを二人で叱咤して列車の外に出た。

「あれ、遙一?」

ふっと一息ついたその時、そばにあった彼の姿がないことにきづいた。
あれ、どこにいったんだろう。しばらく辺りを見回してみるけど、彼の姿はどこにもない。
先にみんなの方に向かったのかな。少し疑問を感じたものの私は列車を後にした。
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