目に染みた煙

我が幻想魔術団の恒例である列車内でのマジックショーは無事、終了した。
ただ一つ、ちょっとした波乱を生んで。

「ごめんね。由良間さんちょっと傲慢というか気位いの高いとこがあって。嫌な思いさせちゃったね。私からも謝るよ」

マジックショーはそれぞれのマジシャンが持ち前の簡単なマジックで観客を魅了するというもの。本番前の前座というところだろうか。うまくいけば、客寄せにもつながるそれは決してお遊びなどの類ではなくマジシャンはいつ何時、誰が相手であっても万全のマジックを披露しなければならない。
けれど、幻想魔術団のトップツーである由良間さんのマジックはそれはもう酷いものであった。女の子の下着を使うなんて、タダ見同然だからってマジシャンとして恥ずかしくないのか、あの人は。
私は美しくないそのマジックに眉根を寄せた。
そして、そのマジックの標的にされた女の子たちに謝罪の言葉をかける。

「ほんとに申し訳ないです」
「いえ!そんな私は大丈夫です!それにはじめちゃんがやり返してくれたみたいですし」
「ああ、そういえばさっきの薔薇。確か少年だったよね。あれはすごいなあ、あんな顔した由良間さん久々に見たよ。良いものみたわ」
「そんなぁ!たいしことじゃあないっすよぉー!」
「は・じ・め・ちゃ・ん?」

ぎゅぅぅうっと女の子が少年の足を踏みつけて、笑う。けれど目が全然笑ってない。もうデレデレしちゃって!と彼に向って怒っていた。そして少年はそんな彼女に涙目になりながらもつっかかる。
そんな仲睦まじい光景に私は思わず吹き出してしまった。

「ぷっ、二人とも仲良いのね」
「「え!!誰がこんな奴と!」」
「わ、息ぴったり」
「あの……失礼ですが貴女は?」

と、二人の保護者だろうか。少し年配の男性が私に尋ねた。
そういえばまだ名乗ってなかったっけ。

「自己紹介が遅れてしまってすみません。私はミョウジナマエ。この幻想魔術団でアシスタントをしているものです」
「へぇーっ!俺、金田一一って言います。それにしてもミョウジさんってほんと美人っすねってうお……っ美雪!!いきなり何すんだ!?」
「べっつにーぃ!あ、私、七瀬美雪です」
「よろしく」

その後も年配の方が剣持さん、カメラを持っているのが佐木くん、と紹介され幻想魔術団のことや金田一君たちの話に花を咲かせた。
どうやらこの少年、金田一君はあの金田一耕助のお孫さんで今までにも数々の事件を解決してきたらしい。世の中はなんと狭いものか。へえ、と感心しながらまだ幼い顔立ちが目立つ彼を見る。
すると、どこからか聞こえる着信音。

「あれ、携帯が鳴ってる。剣持さんの携帯じゃありませんか?」
「いや、俺のはあんな音じゃ……っん?待てよ」

そういって、もう一つのポケットを確認するとそこには見慣れない携帯が一つ。剣持さんが言うにはその携帯は自分のものじゃないらしい。
じゃあ、その携帯はいったい誰のだろ。とりあえず未だピリリリと鳴り響く携帯を無視するわけにもいかないということで、金田一君が剣持さんから携帯を受け取り、それに出た。

「――もしもし?……誰だ!あんたは!!…………『地獄の傀儡子』――――!!?」
「おい、金田一」
「……爆弾だとォッ!!」

え、爆弾!?金田一君の口から漏れ出た言葉に驚きを隠せない。いや、どうせ悪戯か何かでしょ。と笑いとばしたかったけれど、金田一君の切羽詰まったような顔と声音に心臓がどくり、と嫌な音を立てた。
そしてその瞬間――…。

「きゃあッ!!」

大きい爆発音と共に近くのテーブルにあった薔薇のサラダが爆発した。
何、いったい何が起こってるの。未だ、怒鳴りながら電話の相手と話している金田一君をよそに私は無残にはじけ飛んだ薔薇のサラダを見つめていた。
爆発とともに舞い上がった煙に何か嫌な予感を感じながら。
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