戯言 | ナノ




03

オカマの金髪が教師だったことも衝撃だがその鳴海先生から聞かされた学園のことや規則にも驚かされた。
一番は卒業するまでこの学園からは一切出られないこと。もちろん勝手に外との連絡を取るのも禁止。別にぼくには関わりのないけれど、息がつまりそうな学園だ。
まるで監獄じゃないか。そう思ったのは、ぼくだけじゃないはず。

「貴女、星階級いくつ?」
「は」

それは教室に連れていかれ自己紹介やその他諸々が片付いた後のこと。教室に入った瞬間はあまりの非現実さに現実逃避をしたぼくだったがなんとか持ちこたえた。
だって人が宙に浮いていたり、怪しげなものが動いていたり、小学生のくせに柄は悪いわでぼくの幼少期と比較しては頭が痛くなるのは仕方ない。
頭を揉むように押さえてる中、少し我が強そうなパーマの女の子がぼくに聞いた質問の意図が汲めなくても仕方ないはずなんだ。

「星階級よ星階級! まさか貴女知らないの!?」

信じられないものを見たような顔で声を張り上げる彼女。いや、ぼくはこの世界にまだ不慣れなうえ、学園なんてついさっき来たばかりのいわば田舎者だ。そんなぼくがなんでもかんでも理解してるなんて思わないでほしい。
未だぎゃーぎゃー喚く彼女の声をBGMに思い出す。でもそういえば星階級がどうのって鳴海先生がさっき言ってたな。

「もしかしてこれ?」

ぼくは教室に入る前に渡されたバッジをポケットから取り出して見せた。それは小さな星形のバッジ。
これで少しは黙ってくれ、と思いを込めて彼女の目を見る。

「え、あ……っそうよっ! なによ、貴女シングルじゃない!」
「だから、なに?」
「っ別に! ただシングルはシングルらしく過ごすことね!」

少し声を低くして言うとパーマの子はいそいそと自分の席へ帰っていった。いったい何なんだ。ぼくは自分の手の中の星を弄ぶ。
すると今度はツインテールと黒髪ショートの女の子と眼鏡の男の子がぼくに話しかける。
なんだか今日はもてもてだなあ。いや、戯言だけどね。

「なあなあ! ウチ佐倉蜜柑っていうねん。さっきはパーマがごめんなあ」
「いや」

そうかさっきの子はパーマというのか。なんていうかそのまんまだな。

「違うわよ。彼女は正田スミレ。蜜柑が勝手にパーマって呼んでるだけ」
「なるほど」
「私、今井蛍。貴女ずっと思ってたけど、ぴくりとも表情が動かないわね。気持ち悪いわよ」
「ちょ……!蛍ちゃん!」
「いいよ、よく言われるから」

黒髪の子が蛍ちゃんか。初対面早々に毒を吐かれたよ、ぼく。周りが慌てふためいてるけどこの子は平然とぼくを見下ろしている。
するとフォローするように眼鏡の男の子がしゃべりだした。

「ぼ、僕は飛田裕です!一応このクラスの委員長をやってるからわからないことがあれば何でも聞いてね」
「へえ、このクラスの……さぞ大変だろうね」

さっきのこのクラスの雰囲気を見る限りだと確実に学級崩壊をしているだろう。その中でこのおとなしそうな子が委員長だなんて。ぼくは憐れむような視線を彼に向けた。彼は彼でその視線の意味に気づかないのかえへへ、と笑っている。まあ、そうだよね。
そんな委員長の様子にツインテールの女の子……蜜柑ちゃんも楽しそうに笑っている。と思えば彼女の一言でぼくの思考回路が一時停止した。

「なあ、いーちゃん!」
(えーー)

ガタァッン。派手な音がクラスに響いた。
ぼくは思わず立ち上がって彼女の肩を掴む。その時椅子を引く音が大きかったのかみんなの視線が一気にぼくに集まった。
だけどぼくの網膜には蜜柑ちゃんしか映ってなくて。蜜柑ちゃんは大きい目をさらに見開いている。

「あの、いーちゃん?」
「どうして…名前……」
「や、さっきあだ名やったら好きな風に呼んでくれてええからって言うてたやん?だからうち、いーちゃんってあだ名考えて……っ」
「だめだ」
「へ」
「それはやめろ」

蜜柑ちゃんはびくりと体を震わした。そんな状態になってからぼくははっと我に返った。
掴んでいた彼女の肩を突き放すように離す。気づけばクラス中の視線がぼくに向いていることに驚いて、ぼくは適当なことをいってごまかした。

「……えっと、そのいーちゃんっていうのは前の学校でぼくを虐めてた子が使っていたあだ名だったんだ。だからそのあだ名で呼ばれると鳥肌が立つというかその頃の思い出が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返してね。あまり気分がいいとは言えないから、よかったら別のあだ名で呼んでくれないかな?」

そう早口で捲し立てる。すると周りの子も蜜柑ちゃんも驚いた顔をした。まあ、これはさすがに盛りすぎだか。けど言ってしまったものは仕方ない。同情のような空気を誘ってしまったことには申し訳なさを感じる。その筆頭が蜜柑ちゃんだった。何故かって?号泣していたからだ。

「うおーっ!! あんた若いのに苦労したんやなあ!!わああん!」
「……ねえ、蛍ちゃん。大丈夫なのかい、この子は」
「馬鹿なのよ」
「簡潔で解りやすい答えをありがとう」
「ううっ、そんなことを考えずにうちはなんて酷いことを!わかった!これからは鳴海先生が呼んでたいっちゃんでいくわ!よろしくいっちゃん!」
「愉快な子は嫌いじゃないよ。よろしく」

まあ、戯言だけどね。ぼくは未だ涙を見せる蜜柑ちゃんに手を出した。その手を掴みぶんぶん振る彼女は少しだけあのジグザグの彼女に似ていると思ったのは気のせいだろうか。
少しの懐かしさに浸るぼくは背後からの訝しむような視線に気づくことができなかった。

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