戯言 | ナノ




02

「それで、ぼくはどうしてここに連れて来られたんですか?」

それからというもの怪しい男たちにあれよあれよと言われるまま、これまた怪しい黒塗りの車に乗せられてこの無駄に広い学園に引っ張りこまれた。
車に乗る前にぼくのことを知ってるご近所さんが心配したように見てたけど男の一人が学園がどうのと話をすると諸手を振って喜んでいた。ご近所さんのその変わりようにぼくはいったいどうなるんだとため息をついた。
資料に目を通してる金髪の派手な男にその疑問をぶつけてみる。学園についた後はわけがわからないままこの部屋へ通されて軽く自己紹介をされた。確か、鳴海…と言っていたか。印象としてはオカマ。
彼はんー、と資料から視線をぼくに向けて答えた。

「あれ聞いてないの?ここに来るまでの間に」
「聞きましたよ。家のため町のため、はてや国のために売られたんですよね」
「うーん、それはとても嫌な言い方だね。君はアリス学園のことは知ってる?」
「小耳にはさんだ程度でしたら。天才だけを集めて教育するエリート学校とか」

それはクラスの子供たちが話していたことだ。なんでもぼくが小学校に上がる前にその学校の生徒が天才だということがわかり、この学園に引き取られたのだという。
それからぼくの通っていた小学校では校長から教師まで自慢するように話をしていたからよく覚えている。
けれど鳴海という男は曖昧な笑みを浮かべて僕に話す。

「君たちの言う天才とはちょっと違うんだ。僕たちのは天賦の才能。生まれ持って特別な力を秘めた子供たちを保護し教育するのが目的。まあ、簡単に言うと究極の一芸入学の学校ってところかな。そんな特別な力のことを僕たちはアリスと呼んでいる」

アリス。そう言われると不思議の国のアリスとかのアリスしか出てこないからあまりピンとこない。

「もしかしてぼくがそのアリス……?」

話の流れからそう呟くと彼は首を縦に振った。
どうしよう、内容がついていけなさすぎてキャパオーバーだ。確かに前の世界ではいろいろやんちゃしてた時期もあったけど、ぼくなんかみんなみたいな個性的な能力など何もないただの大学生だったし出来ることも数えるほどだった。
それがどうだ。この世界では天賦の才能と言われる軍団の端くれの仲間入り。戯言しか遣えなかったこのぼくがだ。

「いやいやいや、何かの冗談でしょう」
「本当にそう思う?」
「どういうことですか?」
「君は不思議に思ったことはない?何か食べたいと言った時、体よく食べるものが手に入ったり、宿題がめんどくさいと言えばその宿題がなくなったり、失くしたものを見つけるのはしょっちゅうでそして……怪我をするよと軽く注意した女の子が魔法にかかったかのように怪我をした」

だから何が言いたいんです。遠回りな言い方をする金髪に機嫌を悪くする。
確かに彼の言うことはこの世界で生きていった中でどれも経験したことだ。女の子の件についてはごく最近の話で、普通では怪我をしないようなところで大きな怪我をした女の子。その近くにぼくがいたため、犯人扱いをされぼくの両親に当たる人が必死になって女の子の両親に頭を下げた。
ぼくは否定するのもめんどくさくて結局は、なあなあのままに終わったことだけど。

「それは偶然だとかそんなものじゃない。君のそれはアリスだよ」
「アリス……」
「さしずめ言霊のアリスってところかな。言葉にしたことが現実に起こるアリス」
「まさか」
「まあ、君のアリスはまだ不安定で弱いから今まで発見できなかったけど、これからはここでその能力を生かすための訓練ができる。歓迎するよ」

生かすため?ぼくの頭はもうわけがわからなくて発狂しそうだった。
そんな能力なんて知らない、ぼくはぼくで戯言遣いで骨董アパートに住んでて……決してそんな変な能力を持ってはいなかった。
ぼくはぼくだ。この記憶は間違ってなんかいない。

「君の名前は?」
「ぼくは……」
「教えてくれるかい?」
「……ぼくは名前で呼ばれるのが嫌いでして。好きなように呼んでください。ちなみにあだ名にはいっくん、いーいー、いの字、師匠、いっきー、いーたんと色々あります」

そして戯言遣い。ぼくは刻み込むように言葉にした。
ぼくに本当にそんなアリスがあるのだとしたら、忘れるわけにはいかない。なかったことになんてしたくない。
金髪は少し面食らったような顔をしたが、その後しばらく悩みこんで決めた。

「じゃあ、いっちゃんと呼ぶことにするよ」
「お好きにどうぞ」
「僕は鳴海。君のクラスの担任だから、これからよろしくね」

今度はぼくが目をしばたたかせる番。
このオカマ、先生だったのかよ。

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