戯言 | ナノ




01

カーテンから差し込む光で固く閉じられた瞼をゆっくりと開く。
もう朝か。時計を見るとあと少しで家を出ないと小学校に間に合わない時間を指していた。やばい。勢いよく起き上がって着替えようとしたところでぼくは、はっと手の動きを止めた。

「今日、日曜日だ」

はあ、と小さくため息を吐く。柄にもなく焦ってしまったじゃないか。ぼくは急いでいた手を緩めてゆったりと朝の支度を進めた。ここまでくればもう二度寝する気もおきない。
とりあえず朝ごはんを食べようか。

戯言遣いことぼく語り部は、なんの因果か気づけば赤ん坊になっていた。
しかもただ赤ん坊に逆戻りしたわけじゃない。性別が変わっていた。ぼくは女の子になってしまっていた。
自覚したときは絶望したね。何の罰ゲームかっていう。
ベットに横になっていたことまでは覚えてる。けれどそこから先は覚えていない。目が覚めたらこの世界に新たな命として生れ落ちていた。
ちなみにこの世界には前の世界のような機関などはない。つまり全くの別物の世界なのだ。
最初は哀川さん辺りの仕業かと思った。けれどいくら人類最強の真っ赤な彼女でも人の生死や時間をどうこうできるはずがない。よってこの結論は却下。
だとしたらいったい何で。ぼくはちっぽけな脳みそをフル回転させて考えた。
結局はわからない。いくら考えても無駄だった。
前の世界の記憶があっても僕以外の前の世界の住人には未だ出逢うことはないし、その記憶を持ってるという人も見たことがない。
しだいにはこの記憶はぼくの妄想の産物じゃないのか、と思うようになってきた。
だって仕方ないじゃないか。ぼくだけが異常で周りは理解できない。ぼくを生み落した両親である人もぼくを気味が悪いというような目で見る。

「そういえばあの人たちはいないのか」

決して広いとは言えないマンションの一室。それが今のぼくの居住地。
朝からやけに静かだなと思っていたが、どうやらどこかに出かけているらしい。
年齢と中身がいくらそぐわないからといって小学生を一人にして出かけるというのはいかがなものか。まあ、ぼくだからいいけど。
食パンをセットし、時間を指定してスイッチを押す。
さて、焼けるまでテレビでも見てるか。リモコンを取ろうとしたとき、玄関からチャイムの音が鳴り響いた。
あの人たちが帰ってきたのか。いや、だったら鍵を使うはず。わざわざインターホンを鳴らすわけない。宅急便かな。よし、居留守を使おう。
ぼくはなんてことないようにテレビをつけたが、しだいに音は止むことはなくむしろ連打されているのか酷く耳障りなものとなった。なんなんだよ。

「はあ、仕方ない……はいはい今出ます」

玄関に行くまでにも鳴らされる怒涛のチャイムラッシュに呆れながらもロックを外し、ドアを開けた。
でもそこにいたのは真っ黒なスーツの男たち。

「え、あのどちらさまでしょう……」
「君がこの家の娘さん?」
「そうですけど」

なんだ、こいつら。ぼくは怪しさMaxの男たちに眉をひそめる。
男たちはぼくのその視線に困ったように笑ってこう言った。

「お母さんたちから聞いてないかな。君は今からある学園で暮らすんだ」
「はい?」
「これは決定事項だから。ちゃんと君の両親から許可は頂いてる。というよりかは向こうからお願いされたような感じだけどね」

ペラペラとおしゃべりな男だ。だが朝から見えないあの人たちの姿。妙に広くなった部屋のスペース。そして目の前にいるこの男たち。
ああ、なるほど。

(ぼくは見限られたのか……)

その答えは案外あっさりとぼくの中にはまった。

「分かりました。行きましょう」
「……理解が早くて助かるよ」

意外と物分かりがいいぼくに驚いたのか一瞬、男たちは息を詰まらせたが面倒なことにならなかったことに口元をほころばせる。
そしてぼくの背中に手を回し、押すようにぼくを外へ促した。

「さようなら」

10年間過ごした家のドアが閉まると同時にセットしていた食パンがチンっと虚しい音を上げた。

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