暗闇の中で目が覚める。
何もない、何も聞こえない、黒だけが広がる世界。



「………、……。」



己の手を握り、開く。

随分と馴染んだ、この神将の身体は、しかしまだ全ての力を操ることは叶っていない。

拳を握り、再度瞳を閉じる。

暗闇しかない世界は、慣れ親しんだ故過ごし易く、何も感じない。
感じてなどいなかった。はずなのに。

閉じた瞼の裏に、どうしても浮かぶ姿がある。
脳内で何度も聞こえる声がある。

この神将の身体となってから、ずっとあるそれらは、こいつの魂がなくなりかけている今でも消えることなどない。それどころか、強く、大きくなってきていた。

内側から侵食してきているその感情は、酷く醜く、どす黒く、そして激しかった。

危険だ、と。これがある限り、神将が完全に消えることはなくなると。いつか俺さえも喰らい尽くしてしまうと。
そう悟ったとき、躊躇いなくあの女を殺したはずだった。
貫いた肉の感触も、血の気がなくなっていく顔も、全て知っている。

これで危険はなくなったと。


そう、思ったのだ。



「………さむ、い、」



寒い、寒い寒い寒い寒い。

いつからだろうか。
この場所が寒い、などと感じるようになったのは。

いつからだっただろうか。
瞼の裏に浮かぶあの女を想う度、暖かくなることに気付いたのは。

なぜだろうか。
どうしようもなく、焦がれるのだ。


ああ、わからない。
あの女の感触を思い返す度、あの女が俺をこいつと間違えて駆け寄ってきた瞬間込み上げてきたものが大きくなる度、暖かさと同時に言いようのないものが思考を埋め尽くす。


以前の俺にはないものだ。

ああ、だとしたらこの神将のものなのだろう。

目を閉じれば浮かぶ光も、光に見えるあの女の笑顔も、全ては、こいつの残り火のような魂のものだ。


この暖かさも、寒さも、全てはこれのものなのだ。



「さむい、」



胸がじんわりと暖かくなる感触も、全て、こいつの。



「………、……。」



ならば、これらは神将が完全に消えれば、なくなるものだ。



「ああ………、」



ふと思い当たる。
そういえば、あの女の名すら、俺は知らない。


こいつは、知っているのだろうか。

名を、呼んでいたのだろうか。


名を呼べば、あの顔は、どんな表情を浮かべたのだろう。
光が見せるような、あの笑みを浮かべるのだろうか。


暗闇の中で考える。
深い深い思考に耽る。

今考えているのは、俺なのか、こいつなのか、もうわからないけれど。


それでも、どうしようもないほど、身が焦げるほど、心の1番奥が、焦がれているのだ。




あの女が欲しい、と。


どちらともつかぬ魂が叫ぶのだ。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
きっと紅蓮の気持ちとかわかっちゃって影響受けてるはずという勝手な妄想。
黄泉の屍鬼結構好きなんですが、わたしだけでしょうか^p^?



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