自室で療養(神将達から頼むから休んでいてくれと言われた)していた昼下がり、昌浩が訪ねてきた。
部屋から出れず、というよりも、出してもらえず、暇だったので仕方なく本を読んでいた私は、喜んで招き入れた。茵のすぐ横に座った昌浩にならい私も座ろうとしたが、寝ていろと怒られたので上半身だけ起こした状態で昌浩の方へと顔を向ける。
すぐ傍らに座る弟の顔色は優れない。天一が移し身の術を施し、一命をとりとめたのだと聞いていたけれど、やはり万全な状態までの回復は難しいようだ。きっと、精神的な要因もあるのだろう。

俯いたまま言葉を発さない昌浩に、さて、どうしたものか。と考えを巡らせる。
空は昌浩が訪ねてきたのを見て、無言でどこかへと行ってしまった。護衛だった六合と白虎も同様だ。
つまりは、今この部屋には私と昌浩しか居ないのであって、それを見越して昌浩がやって来たのであったら、私からではなく、昌浩から喋ってくれるのを待つしかないのではないか。なら、私は待ち続けるしかない。

流れ続ける沈黙の中、ゆっくりと、昌浩が私を見た。



「……、怪我、大丈夫?」

「うん。空が治してくれたらしいから。もう大分平気。」



掛布の下で怪我のある箇所に軽く触れる。
そこに傷口はもうない。痕が残っているけれど、激しく動かない限り開くことはないだろう。触れたそこは、もう痛くはないけれど、僅かに熱を持っているように感じるのは、失ったものがどれだけの存在だったのかを教えてくれるものだから、私はこれすらも失くなってしまわないように強くならなくちゃいけない。



「昌浩は、無理してない?もう出仕したって聞いたけど。」

「敏次殿から文を頂いたんだ。忙しい時期だし、休んでいられないよ。」



眉尻をみっともなく下げて、それでも笑う昌浩に、見ている私が泣きたくなる。
ねえ、それは無理してるんだよ。泣きたいのを堪えて、叫びたい心を押さえ付けて、崩れ落ちそうな自分を無理矢理支えて、そんな自分を見ないようまた無理して、無限ループ。

私を見据えて、けれど、どこか違う所を見ている昌浩の手を握る。
驚いたのか、強張ったのがわかったが、恐る恐る握り返してきた彼の手は、どこか縋り付くような、そんな気がした。



「……やっぱり、まだ治りきっていないみたい。少し眠りたいから、傍に居てくれない?」

「……うん。おやすみ、姉様。」



ぎゅ、と手を握りながら瞼を閉じる。
沈んでいきそうな意識の中で、指と指が絡められたのがわかり、それに安心したような、言いようもない虚しさとか、そういったものが生じた気がして、ああ、縋り付きたいのは、私も同じだ。

絡められた指に、繋がれた手に、泣きそうになった。

**********

静かな寝息をたてはじめた姉様。
つながっている手を、両手で包み込むように握り直し、おでこをあわせる。

ああ、姉様の手って、こんなに小さかったんだ。

すっぽりと手中におさまってしまった白い手に驚く。



「……姉様、」



室内が薄暗くなる。
陽の光が雲によって隠されてしまったのだろう。



「姉様、」



目の前で眠る彼女は、どういった道を進むのだろうか。
俺が決めた道とは、また別の道に定めたのだろうか。

姉様、俺、俺さ、



「……約束、全部破っちゃうんだ。」



大事な、とても大事な約束を、全て。
それを思う度、約束達が俺の首をゆっくりと締め付けてくるんだ。



「……、…姉様、」



姉様、姉様、また、笑ってくれますか。
彼が戻って来たら、俺が好きな、あの安心する、心が暖まる笑顔を、浮かべてくれますか。

姉様、姉様、



「……咲夜…!」



久しぶりに呼んだ彼女の名に、答える声はなかった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
複雑な心と意志の交差。交じり合い一直線になれるのか…!



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