じい様に空を紹介しに…なんて言うと、まるで私達が結婚でもするかのようだが。うわ、空と、なんて御免被る。思わず想像してしまい、眉を顰めるが、空にとっては全くもってはた迷惑な話しだと思う。しかも今はどうでもいい。
紹介しに行った後、自室へと足を踏み入れると、どこか懐かしく感じ、そしてどこか一抹の寂しさを感じた。
数刻前までは私はここに確かに居たはずなのに、ずっと、それはもう長い間戻っていなかったような、もう二度と戻っては来ないような、合い反する2つの懐かしさを感じるのは、異界へと行っていたせいなのか、それとも、



「……………。」



そんなの、理由なんてわかりきっているのに。

この部屋を飛び出した時、戻ってきた今。変わったのは私の決意。私の意思。私の在り様。
私自身が変わったのだから、だから、懐かしく、変わる前と同じ部屋を懐かしく感じるのだ。

ああ、懐かしく感じるといえば、空を見たじい様も驚いたような、それでいて古くからの旧友に会ったような表情をしていた。
2人は、知り合いだったのだろうか。
後ろに控えている空を盗み見れば、何故か目が合い、心臓が撥ねる。



「どうした。」



低く透き通るような声が静かな室内に融ける。切れ長の瞳の中には私が映っており、私と私の目が合う。
ゆらゆら揺れる私は、まるで夢の中の私のようで、視界の端で夕焼け色が笑ったような、彼が私の名前を呼んでいるような、そんな錯覚を覚えてしまい、心が悲鳴をあげるのを堪えようと力を込めて拳を握る。

何か、何か言わなくては。
脳とは反対に、口は短い吐息を吐き出すだけで、言葉が発せられることはない。ぐるぐるぐるぐる、様々なものがごちゃまぜになり私の中で浮いては沈んでいく。拒否反応を起こしたかのように胸が締め付けられる感覚、身体の中心から込み上げてくるものに気持ちが悪くなる。

優しい夕焼けと冷たい夕焼けが交差し、振り向くことのない彼の後ろ姿に手を伸ばす。
頭が揺さぶられる。守りたいと決意したのに、皮を1枚剥がしてみれば、そこにあったのはなんとも脆い心で。
けれど、それを隠して私は前を向くしかないから。守ると誓ったから。全部、全部守るから。守って、みせるから。だから、どうか、



「咲夜、」

「……く、う?」



頬に触れた大きな暖かい手に、大きく渦を巻いていた心が掬い上げられる。ぱしぱしと目を瞬かせると、目の前には空の顔があって、その表情は心配そうに眉根が寄っている。あれ、いつの間に空はここまで近くに来たのだろう。
ゆっくり頬を撫であげる手の平がくすぐったくて、少し身を捩れば、どこか安心したような息を吐く彼の手に自身のそれを重ねる。
例えば、この手の暖かさが消えたとして、誰か悲しんでくれるのだろうか。泣いてくれるのだろうか。失ってしまった1つの欠片を、誰か顧見てくれるのだろうか。
ああ、きっと、とても心優しい人達だかりだから、悲しんでくれるのだろう。心を痛めてくれるのだろう。けれど、それは望んではいないから、どうか、どうか涙を流さないで下さい。
きゅ、と強く空の手を握る。ぐらぐら揺らぐ心にきつく目を閉じて、その上から決意を乗せる。
ごめんなさい。謝っても許してはもらえないだろうけれど。私には、これしか道はないから。私には、これが1番に思えるから。だから、私は自分勝手な考えで、約束を破ってしまう。ごめんなさい。
でも、それでも、私は夕焼けを取り戻したいから。曇った空を優しく照らしてくれるのは、紅色をした暁だけだから。だから、



「……、…許してとは、言えないけれど。」



嫌いにならないでと、心は叫んでいるけれど。
きっと、私は皆に失望されるのだろう。なんて身勝手な、と呆れ、嫌われてしまうのだろう。それは、身が裂けてしまいそうな、私の全てが無くなってしまいそうな程、つらく悲しいことだけれど。



「だが、決めたのだろう。」



低く心地好い声に、小さく頷く。
決めたのだ。選択をしたのだ。提示された可能性から、己で考えた未来の中から、この道を選んだのだ。



「…付き合わせちゃって、ごめんね。」

「それが、我の使命であり、意思だ。付き合うと決めたのも、我だ。」



だから、謝るなと。そう言ってくれた彼に、目を細め、もう1度強く手を握り、ありがとう、と呟いた。




夢は、決めたと言っていた。それはきっと昌浩のことで、彼もまた、選んだのだろう。昌浩がどんな選択をしたのであっても、私は私が選んだ可能性を全力で掴む。昌浩も、もっくんも、2人共助けてみせる。そして、また2人が笑い合える日常を掴み取ってみせる。




たとえそこに、私がいなくとも。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
なにこのスーパー空タイム(^p^)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -