しんと静まり返った安倍邸。
先ほどまでなぜかなにがそんなに嬉しかったのかフィーバー状態の晴明さ…じい様と神将達にもみくちゃにされていた。
一体なんなんだ。
いや、理由はわかる。わかりきっている。
私が晴明様のことをじい様と呼んだからだ。
あ、思い出したら顔熱くなってきた。
そしてにやにやしてた勾陳も思い出した。
あ、拳に力が。
後から来た太裳にもよかったですね、と頭撫でられたし。
そして皆の生温かい瞳がすごいくすぐったかった。
横になった状態のまま天井を見上げる。仰向け万歳。うつ伏せってつらいよね。
すごい嬉しくて恥ずかしくてくすぐったくて暖かかったけど、けど。
きりきりと胸が痛んだのは、なんでだろう。
私がいつか帰っちゃうから?
それもある。あるけど。


あそこに、昌浩と紅蓮がいなかったから。

過保護な優しい神将と可愛い可愛い弟がいなかったから。

きりきりと胸が痛んで、塞がったはずの傷がずきずきしてきた。
ああ、やっぱりあれは紅蓮だったんだ、と。
確かに私は実は直情型のあの神将に対していった。
あれは黄泉の屍鬼だと。でも、紅蓮だと。
わかってる。わかってた。

わかってるつもりだった。

ああ、でも。でも。



「信じたく、なかったなあ…。」



心のどこかで全力拒否をしていたのかもしれない。

あれは紅蓮なんかじゃない、と。
私の知っているあの神将ではない、と。


信じたく、なかったなあ。

ぐ、と唇を噛みしめる。
視界がぼやける。冷たいものが目尻に溜まる。

ああ、ああ、



「寒い、よ。」



傷がぐずぐずと熱を持っては冷め、熱を持っては冷め。


ああ、ああ、





  ら

  く
 あ



 と

**********

「咲夜?」



返事のない室内に眉根が寄るのがわかる。
先ほど戻ったはずだが。



「…入るぞ。」



返事が返ってこないのは分かっていたので室内へと足を踏み入れる。
明かりが灯されていない暗い部屋に咲夜の姿が見えない。
寝たのか?
褥はないようだ、が…。


……っは


な、


…っぁ


に、



部屋の中央、不可解な濃い影がのたうちまわっている。

あれは、あれ、は…。



「咲夜!?」

「は、あっ、はっ…は…っ!」



胸を押さえ背は仰け反り上気した顔からは荒い息が不規則に吐き出されている。

苦しそうに顰められた眉間。
な、んで…。



「っ!誰か、誰かいないか!?」



誰でもいいから速く…!
こちらに近づいてくる神気を感じながら、急いで咲夜へと駆け寄る。
手を伸ばして触れようとする。



「はっ……、」



伸ばした手が触れる直前、少女は動かなくなった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
見えてしまった現実。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -