夜。太裳と勾陳と仲良く楽しく喋っていたら奇襲をうけた。
昌浩ともっくんの一人と一匹から。

そのままわけがわからないまま夜も更けてきていた京の都へと強制連行。
え、なんで。



「脩子姫を探すんだ。」

「どうやって?」

「黄泉の瘴気に取り込まれた化け物がいたら、そいつをとっ捕まえて瘴穴に案内させるの。」

「随分と能動的かつ危険な方法だね。」



こんな危険な方法を堂々と自信満々に語る子供の姿を見たら、教育者号泣間違いなしだね。
そしてこんな思考回路になったのは漫画とかが悪いんだとか意味のわからないことをほざき始めるんだ。
ちっくしょう、ヲタクは無実だ!



《……同調してみたらどうだ?》



私の横を歩いていた六合の言葉に昌浩が立ち止り振り返る。
同時に六合と玄武が顕現した。



「子供の心は、純粋で強い。心を鎮めて探れば、姫の《叫び》を捉えることが、出来るかもしれん。」

「それって、俺が子供だから合わせやすいってこと?」

「少なくとも、大人ではないだろう。」



自分を親指を指し首を若干傾げる昌浩に、玄武がさも当然だと言うように答えた。



「咲夜は大人寄りだしな。」

「寄りってなにさー。これでも成人まで後ちょっとだったんだよ。」

「確かに、咲夜よりは昌浩の方が有効かもしれないわ。中途半端だから聞きやすいのかもしれないもの。」

「…褒められているのか貶されてるのかわからないなあ。」



納得いきません、という表情をありありと浮かべる昌浩に苦笑を零す。
私がやるよりかは太陰が言うように昌浩が探った方が確かに有効なのかもしれない。
マージナルマンですし、昌浩くんの年齢は。



「何もやらないよりかはいいんじゃないかな。」



そう助言すると、それもそうだね、と言って昌浩は印を結んだ。



「ナウマクソロバヤタ、タァギャタヤタニャタ…。」



すっと昌浩が纏う空気が研ぎ澄まされていく。
息を殺し、昌浩の様子を伺う。



「――!」



ざわり、と胸の奥でなにかがざわついた。
がんがんと頭の芯から何かが強く叩いている。

そんな、だって、まさか。

愕然と目を見開く。
迂闊だった。
初めからありえないと決めつけ、最初から除外していた場所。
大路の先にあるそこは…。



「……行ってみましょう。多分、当たってる。」



昌浩が見つめる先、太陰が指差す先、私たちが愕然と見つめるその先。

そこは大内裏の中にあり、再建の急がれている内裏だった。
己の迂闊さを恨みながら、私たちは駆け出した。

**********

夜といっても大内裏の中に人目を忍んで入るというのは難しい。
全ての門前では篝火が焚かれ、交代制の衛士が門を守っており、北辰が翳って帝が病に伏せるという大事の最中の為、人の行き来が激しい。
どうしたものか、と昌浩と首を傾げ悩んでいると、痺れを切らした太陰の竜巻に呑み込まれ、強制的に不法侵入を犯してしまった。
どすん、という音と共に衝撃が背中から胸を貫いた。



「痛っ!?」

「いててて…。」



背中から落下したらしく、凄い勢いで後頭部を強打した。
痛さに悶えている昌浩を見つつ、まるで何もなかったかのように涼しい顔をしていた六合に手を貸してもらい起き上る。
玄武は少々よたついていた。
元凶である太陰は元気百倍で周囲をきょろきょろと見回している。



「あれ?もっくんは?」



じんじんと痛む後頭部を押さえながら六合に聞くと、昌浩の方へと視線をやった後静かに昌浩の下を指差した。
……下?



「わー!?もっくん生きてる!?」



回復してきた昌浩を半強制的にどかし、見事に潰されていた物の怪を救出する。



「大丈夫かもっくん生きてる!?」

「うー…。」



少しつらそうだけど、まあ大丈夫そうだ。
自分が潰していたと知り慌てている昌浩にもっくんを渡し、周りを見回す。

暗い。人の気配も全くない。
ここが清涼殿。
外観だけは出来たと聞いていたけど。
うろうろとぶらつくと、後ろから六合と玄武が追ってきた。
後ろでは太陰と昌浩ともっくんが騒いでいるが、スルーすることに決めたようだ。



「あまり離れるな。」

「大丈夫。」

「信じられん。」



間髪入れず返してきた玄武に苦笑を零す。
そんなに信用がないのか、私って。
六合を見れば、玄武に同意だとでも言いたげにこちらを見ていた。
とりあえず二人の怒りを買わないよう、歩くスピードを落として歩いていると、ふと異様な気配が漂ってきた。
ばっと身を翻し、この異様な気配の出所を探す。
玄武と六合も警戒した面持ちで私と同じ場所を睨みつけている。


清涼殿の正面、南庭。

その中央に突然、黒円が生じた。
そこから冷たくおぞましい風が天に向かって吹き出し立ち昇っていく。
昌浩達も気付いたのか、急いで私達のもとへと駆けて来た。



「ほら見なさい、当たってたじゃない。」



ふよふよと浮いている太陰が、誇らしげに胸を反らす。



「呑気なことを言っていられる状況じゃあ、なさそうだがな。」



もっくんがひらりと昌浩の腕の中から飛び降り、そのまま姿勢を低くして身構えた。
六合は銀槍を閃かせ、玄武と共に私を庇う様に前へと出る。
太陰の周囲に大気の渦が巻き起こったため、近くにいる私達の裾が翻る。
その風の中に、重く澱んだ瘴気が混じって、首に、顔に、全身に貼り付き撫で上げてきて気持ちが悪い。
ぞわりと全身が総毛だつ。

ああ、気持ち悪い。
きっと瘴気を吹き出している黒円を睨みつける。



「嫌なもの振り撒いちゃって、気に入らない…!」



私が低く呟いた瞬間、瘴穴がぶわりと大きく広がり、全員の姿を呑み込んだ。






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