紅蓮に自分のこと、母様のことを全て話した後、私は紅蓮と一緒に邸へと帰った。
私が私だと言ってくれたことが嬉しくて、心が軽くなって、恐怖が薄くなったのが分かった。

けれど、全ての恐れと不安がなくなったわけではなく、邸に近づくにつれて知らず知らずのうちに進む速さが落ちて来てしまっていたようだ。
それを見兼ねたのか、紅蓮が手をぎゅ、と握ってくれた。


ああ、なんて優しいんだろうか。

この人が凶将だなんて信じられない。
この人は、紅蓮は、こんなにも温かいのに。
地塗れだなんて、汚らわしいなんて、誰が言ったんだろうか。
この手はこんなにも大きくて安心できるというのに。

ぎゅ、と握り返すと微笑んでくれた。
さあ怖がることなんてないぞ、私!


門をくぐると「咲夜が帰って来たわよーっ!」と太陰の声が聞こえてきた。
その数秒後、どたどたと足音が聞こえて来たかと思えば、すごい勢いで昌浩が駆けて来た。

ああ、嫌な予感がする。



「姉様!何してたんだ!?」



剣幕が怖いよ、昌浩。



「その話は後だ、昌浩。」



今にも肩を掴んでがくがくと揺さぶってきそうな昌浩を紅蓮が止めてくれる。
ナイス。私の脳みそシャッフルされるところだったよ。



「晴明様の部屋で待っていてくれる?そこで、話すから。」

「じい様の…?」

「うん。神将達も皆晴明様のところに集まっといてって伝えて。…わかった?六合、玄武、太裳。」



昌浩の後で完璧な隠形をしていた三人に言えば、渋々晴明様のところへ向かってくれた。気付かないとでも思ったんだろうか。
昌浩も神将達と共に行ったので、この場にいるのは私と紅蓮だけ。

大丈夫。大丈夫。

壊れたりしない。皆離れたりしない。


大丈夫。



「安心しろ。」



優しい声が耳朶を打つ。



「俺がいる。」



なんて落ち着ける声なんだろう。
なんて頼もしい言葉なんだろう。

大丈夫。私は大丈夫。

紅蓮がいる。大丈夫。

わかってくれている人がいる。


行こう。と一歩踏み出した。

**********

晴明様の部屋には、十二神将、昌浩、晴明様が揃っていた。
ぎゅ、と紅蓮が今までよりも強く手を握ってくれる。

うん。言わなくちゃ。
拒絶されても伝えなくちゃね。
だから、私に、弱い私に力を、勇気を下さい。


紅蓮の手を握り返し、私は口を開いた。

**********

部屋にいる人達から視線を外さないようにしながら、私は全てを伝えた。
私のこと。お母さんのこと。守護者だということ。
途中言葉につまったり、体が震えたりしてしまって喋ることを止めそうになってしまったけれど、その度に紅蓮が手を強く握ってくれた。

ああ、今日はずっと握られっぱなしだな。



「……咲夜様。」



沈黙の中、晴明様が口を開く。

何を言われるのかな。
拒絶の言葉だったら、私、立ち直れない。



「――話してくれて、ありがとう。」

「え、」

「咲夜様自身の事。我らに話すことは想像を絶するほどの勇気がいったじゃろうて。」

「せ、いめい、様…、」

《我は、その様な事実で咲夜を拒絶せぬ。》

「げんぶ…。」

《……ありがとう。》

「りくごう…。」

《どんな咲夜だろうと、私は受け入れますよ。》

「た…い、じょうっ!」

「姉様は姉様だろ。それで十分だと俺思うんだ。」

「まさ、ひろ…っ!」



じわり、と目頭が熱くなるのがわかる。
視界がぼやけ、顔が歪む。

泣くな、泣くな、泣くな!

泣いたら駄目だっ。
我慢するんだっ。
泣いたら、皆困ってしまうじゃないか。

泣くな、泣くな!

こんな弱くなかった。
わたしは、こんなに弱くなかった…!
ひとりで、一人で、独りで!ヒトリでなんでも出来た!
私は、わたしは、ワタシは…!



《泣け。》

「――え、」

《なぜ、我慢する。》

「しょ、らん…?」



強い双眸が私を捉えていた。

泣く?泣け?泣いてもいい?
自分勝手な理由で、泣く?
駄目。駄目だよ。
そんなことできない。
私は、周りに迷惑をかけないよう、過ごしてきたんだよ。
親戚の家を転々としていたから仕方ないと思う。
だから、強い子に、一人でなんでも出来る子にならなくちゃいけないんだよ。
一人で、ヒトリで、独りで、



「我等はみな家族。…泣いてくれても、いいんだがのぅ。」

「でも、」

「泣いてくれると、嬉しいんだ。」



昌浩、いいの?
晴明様、本当にいいの?
迷惑じゃない?
嫌わない?
邪険にしない?



「はな、れて、行かない?」



皆が笑顔で頷いた。

宵藍は、いつもの仏頂面のまま。

六合は、薄く微笑しながら。

太裳は、困ったような、でも優しい笑顔で。

玄武は、綺麗な微笑を浮かべながら。

昌浩は、泣きそうな、どこか怒ったような顔で。


皆、優しくて暖かかった。



「離すわけ、ないだろ。」



私の隣に立つ人は、まるで私が脆く儚いものであるかのように、壊さまいとするように、ゆっくり私を抱きしめた。

今この瞬間、私は本当に晴明様達の家族になれたような、そんな気がした。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
暖かい居場所。





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