高於と別れ、貴船を後にした。
空が何か言いたそうだったけれど、そんなことを気にしている余裕はなかった。
宵藍も私も一言も発しないまま歩を進める。
一条戻り橋まで来た時、私が歩を止めると、するりと握っていた手が離れていった。
胸に何かがちくり、と刺さった気がした。
宵藍も歩を止め、目だけで「どうした」と問いかけてくる。
「少し、寄り道してきてもいい?」
《…なるべく早く帰って来い。》
それだけ言って、宵藍は瞬く間に異界へと立ち戻っていった。
ありがとう、と聞こえないだろうけど小さく呟く。胸の痛みは消えていた。
安倍邸の方へと背を向け、橋の袂へと下りると車之輔がいた。
隣いいかな?と聞くと、大きな体をがたがたと動かして肯定の意を示してくれる。
一人になると、考えることは決まっていた。
「…はあ。」
先ほど神子様…お母さんと交わした言葉だ。
お母さんは死んでいなかった。
私は半分人間じゃなかった。
神と人間のハーフだった。
「…お母さんの後を、継がなくちゃいけなかった。」
半分人間じゃないという話には、以外とすんなり納得できた。
風音と戦った時、私に起きた異変はそのせいだったんだ。
納得はした。けれど心がついてこない。
頭がちゃんと回ってくれない。
疑問と不安と恐怖が渦を捲いている。
自分自身への恐怖。
私のこの秘密を知ったときの皆の反応への恐怖。
これからわたしはどうなるのかという不安。
全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って、沈んでは浮いて、浮いては沈んで。
私の頭の中を掻き乱している。
「…こんな悩む姿とか、私には向かないよ…。」
「そうだな。」
「っ!?」
返事なんて返ってくるわけがないと思っていた独り言に、誰かが同意の言葉を述べた。
驚いて顔を上げると、随分と高い位置から私を見下ろしている人物が目に入る。
ざんばらの髪をときおり吹く風になびかせながら、騰蛇がそこにいた。
「…どうしたの?」
「お前が帰って来ていない、と神将達が煩いんだ。」
…宵藍、説明しといてくれなかったのか。
はあ、と大きな溜め息を吐かれてしまった。
いろんなことに足を突っ込んできたせいか、皆が過保護になってきている気がする。
特にひどいのは太裳と天一、宵藍だ。オプションで朱雀。
天一が悲しむからという理由で、ある意味過保護だ。
いつもならここで大人しく帰るのだが、
「…ごめん、今日は一人になりたいんだ。」
私は今、ちゃんと笑えているだろうか。