鴉が笑った気がした。



「遅い、遅いぞ、十二神将。」



ばさりと黒翼を大きく広げて、左の鴉は傲然と言い放った。



「黄泉の風は都を覆いつくし、更なる呪詛が神の血筋を醜い死地に追いやろう…!」



そして、新たな支配者を、この国は迎えることとなるのだ。
羽ばたきとともに鴉の黒影が舞い上がる。
そして、左の鴉は耳に突き刺さるような鋭利な叫びを上げた。
おぞましい瘴気と凄まじい霊気が重なり合って、風が逆巻いた。
見えない大岩が叩きつけられたような衝撃が、私達を襲った。
太陰の悲鳴と玄武の叫びが風を裂いた。
六合の長布が私達を覆い衝撃から守ったが、反撃するほどの余裕はなかった。
その間に、風音はよろめきながら身を翻した。



「風音っ!」



風音は、一瞬だけ私を顧みた。
物言いたげに目を細めて唇を噛み、しかし彼女はそのまま闇にまぎれて姿を消してしまった。

ああ、行ってしまった。

余波が完全に消えると、太陰ががくりと地に膝をつく。



「…嘘よ。」



六合の長布をきつく掴んだまま、太陰は震えを帯びた言葉を呟いた。
私は太陰の隣に座り、その小さな体を抱きしめた。



「あれは、笠斎の声だわ。そんなことありえないのに、絶対にあってはならないのに、どうして…!?」

「…もしや、笠斎の妄執が、あの鴉に宿ったのか…。」



玄武が思案しながら呟いた。
あの、鴉。喋っていたのは左の奴だけだった。

もしかしたら、元は普通の鴉だったのかもしれない。



「でも、あの鴉が宿していた力は、笠斎の霊力とは違った!」



知っているんだ。
…もしかしたら、皆、その笠斎っていう奴の力を知っているの?
晴明様に笠斎のことを聞いたとき、場の空気が、凍った。
笠斎って奴は、皆となにかあったんだろうか?



――晴明様と、何があったんだろうか?

**********

「はあ。」



あの後、重い空気のまま安倍邸へ戻った。
帰ったときの青龍からのブリザード並みの冷たい視線はものすごくきつかったけれど。
それを冷や汗かきながらかわして、今やっと貸してもらっている部屋に戻れた所だ。



「風音…。」



去っていく間際に見た、風音の視線が気になった。
何か言いたげだったが、唇を噛み締め、堪えたあの顔。
胸に引っかかって消えない。



「…だぁー!もう!」



ぱんと自分の頬を叩いて立ち上がる。
ここで悩んでいても意味がない!風音の気持ちを私がわかる筈ないじゃん!エスパーじゃあるまいしっ。
こうなったら探し出すしかないでしょう。

思ったら即行動。さっさと探しに行こうと思って庭に駆け下りた。ら。



「どこに行くんだ?」



もっくんに見つかった。



「い、いやっほー。帰ってたんだね。」

「ああ、ついさっきな。」

「お疲れ様。じゃ」



片手をあげて踵を返そうとしたが、誰かに腕をつかまれてしまった。
振り向くと、なぜか本性にもどったもっくん…騰蛇が私の腕を掴んでいた。



「どうせ、ろくなことじゃないだろう。」

「え、何も言ってないのに?」



そりゃないよ。どうして十二神将の皆さんはこうも私の行動をここまで把握しているんでしょうか。
もしや本当にエスパー?



「さっさと戻れ。」

「いーやーだー!行ーくー!」



腕を掴んでいる手をはがそうと頑張ってみるが、やっぱり離れない。
どれだけ力強いんだ。

しばらく無駄な抵抗を続ける私に、やれやれ、と騰蛇が言ったのが聞こえた。
と、思ったら私の足が地面から離れた。

は、え?

何故か騰蛇に俵担ぎにされていた。



「え、ちょ、何故に!?」

「戻らないお前が悪い。」

「どんな理由!?」



おーろーせー!と騒ぐが、それも無意味に終わってしまった。
そのまま部屋に連れ戻されてしまい、何故か騰蛇が見張りについている。
逃げられない!



「と、騰蛇さーん。昌浩のとこにいなくていいんですかー?」

「あいつは今寝てる。少しくらいいなくてもいいだろう。」

「………。」



どうしよう、勝てない。


少しとかいって、騰蛇は私が眠るまでいた。

誰かに頼まれたのか。そうだったのか!?






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -