「ねー。」

《…………。》

「ねーってば。」

《…………。》

「おーい!聞こえてるー!?」

《…………。》

「わーん!勾陳、青龍が反応してくれなぃぃぃ!」

「よしよし。気にするな、あれはもともとあんなだ。」



ぽんぽんと背中を優しく叩いてあやしてくれる勾陳。今日の護衛は勾陳と青龍の二人。
優しい勾陳に比べて青龍は、



《…………。》



我関せずポーズを貫くようだ。



「…前は反応してくれてたのに。」



久々に会えたと思ったら、不機嫌MAXで口をきいてくれないなんて。



「咲夜、お前が悩むことじゃない。」

「え?」



突然そう言った勾陳の顔を見上げれば、愉快気に笑っていた。



「久しぶりの咲夜の護衛だというのに、自分一人ではなく私までついてきたのが不服なだけだろう。」

《――っ!》



あの、勾陳さん。青龍の方からものすごい殺気が飛んできているんですが。
なんであなたはそんなにも素敵スマイルでスルーしてるんでしょう。



「図星をさされて怒るな。」



勾陳がくすくす笑いながら青龍に言う。
そうだ。さっき勾陳が言ったことって。



「ほ、本当なの青龍?勾陳が言ってることって…。」

《ちっ……。》



舌打ちした!奥さん今この人舌打ちしましたよ!?
しかもさっきより不機嫌度が上がった気がする。
さっきのがMAXじゃなかったんだね!
…え、こっからどうしろと?
不機嫌MAXの青龍とどう接しろと?私に死ねと?



「そんなに悩むな。あいつのあれは諦めろ。」

「勾陳、そんなあっさり…。」



というか、貴女はこの状況を楽しんでないかい?



「うー…。」



ばたん、と後ろに倒れる。あー…夜は長いー…。

……。



「二人とも!」

「どうした?」
《…なんだ。》

「質問するから答えて!」

「ああ、いいぞ。」



一瞬驚いてから、勾陳は笑顔で頷いてくれた。



《………。》



青龍の沈黙はOKととろう。



「まずひとつめ!私の第一印象は?」



最悪だろうけど。
…悲しくなんかない。



「警戒しておいた方がいい相手、だな。」

《晴明に近づくな。》



すごく素直に答えてくれたから逆に清々しい。



「ふたつ目!今の印象は?」

「見ていて飽きない、楽しい人間。」
《落ち着きがなくて頭より体が先に動く阿呆だ。》



褒められてるんだか褒められてないんだか。



「みっつ目!私の直して欲しいところは?」


「危険をかえりみず無茶をするところはどうにかしてほしいな。」
《己の体は後回しという考えはやめろ。》



見事に即答だ。



「頑張りまーす。どんどんよっつ目!私にしてもらいたくないことは?」

「《妖などとのせん「それ以外で。」……。》」



真剣に悩み始めた。



「……咲夜のいた場所の着物で無闇に歩き回らないでもらいたいな。」



そうか。動きやすいんだけどなあ。



《騰蛇に近付くな。》
「え、無理。まず昌浩に会いに行くもん。」



沈黙。



「んー。直したほうがいいことがいっぱいあるなー。」



青龍の発言はスルーすることにした。



「いくつ直るかなー。」

「着物だけは直してほしいがな。」

「やっぱりー?肌見せることは、はしたないんだよね、ここでは。」



昌浩達が現代の夏場の服を見たら面白そう。
ちょろっと想像してみればかなり楽しい。…見たい。



「さ、もう寝ろ。」

「はーい。」



いそいそと布団へ入ろうとする。



「!?」



背筋を冷たい手がなぞりあげ、そのまま首筋を握られる。そんな感覚がした。



「…なに、今の。」



急いで外に出る。全身が総毛だって、心臓がいつもの倍以上に動いている。
空を、自分が見れるぎりぎりの範囲まで見た。
北の空。曇天に一箇所だけ亀裂が入ったその場所。
そこには北辰があった。あった、が、



「ほ、くしんが!?」



翳っていく。
じわじわと、夜空の黒よりもさらに深く暗いもので、北辰の光が薄れていっている。



「どうして…!」



北辰は天帝、天は地上を映す鏡のようなもの。
その北辰が翳った。

翳りは終わる気配を見せず、北辰の輝きは徐々に失われていっている。



「嫌な予感がびしびしするっ!」



私は、全力疾走で晴明様の部屋へと向かった。

**********

「…宵藍、一応礼を言っておくぞ。」



太陰の風に煽られてよろめいた晴明様を、青龍が晴明様の服の襟足を掴んで引き戻したのだ。



「青龍…、晴明様ももう御歳なんだから労わらないと。」



はぁ、とため息を吐く。
それを黙殺した青龍は、ふと片目をすがめて、ちっと舌打ちを零し隠形した。
それと同時に、昌浩ともっくんが姿を現す。
私の横に移動してきた青龍をこっそり見上げると、ものすごく嫌そうな顔をしている。
相変わらず嫌ってるなあ。



「姉様!?」

「咲夜!?」



私を見た二人が驚いた声をあげるので少し面白くて微笑が漏れた。



「……昌浩や、せめて髪くらい括るとか。そもそもお前、寝るとき髷を解いておるのか。確かに寝相が悪い場合はそのほうが楽だが、毎朝あんなしち面倒くさいことをしているのか。若さだのう。」



ふむふむと変なところで感心する晴明様に、昌浩は声を荒げる。



「じい様、今そんなたわけたことを言っている場合じゃないでしょう!六合と玄武の気配が、竜巻で…。」

「ああ、太陰が運んで行った。…太陰の風は荒っぽいが、白虎のそれより速い。」

「…私も、六合達を追ってもいいでしょうか?」

《駄目だ。》



隠形している青龍が止める。
むっと青龍を睨み上げるが、効果はない。
逆に真剣な瞳で見られて、たじろいでしまった。



《危険だ。》

「あっちには六合達がいるんでしょ?だったら大丈夫に決まってる。」

《万が一怪我をしたらどうする。》

「そんなの気にしてたら妖を調伏できない。」

《そんなことはそこの半人前に任せておけばいい。》

「…なんだと?昌浩が半人前?」

《そうだろう。》

「もういっかい言ってみろ…!」



もっくんの全身から緋色の闘気が迸る。青龍も顕現をした。



「確かに昌浩は半人前だが、お前に言われると癪に障る…!」

「ふ、たり共、そこまで!」

「ね、姉様?」

「今はそんなことやってる場合じゃないでしょう!?そういうことは全部終わってからにして!」

「………。」
《………。》



もっくんはふいっと昌浩の横へと戻る。
青龍もまた隠形して、私の横についた。



「六合達だけじゃ大変かもしれないので、なんと言われようが私は行きます。いいですよね?」



晴明様の方を見ると、一瞬目を見開いてからふむ、と唸った。



「霊力も戻ったようだしのぅ。問題はなかろうて。」

「ありがとうございます。」



晴明様に一礼したあと、いまだに呆気にとられている面々を放って、さっさと塀を飛び降りた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
展開速かった。



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