あの後、駆け付けた敏次殿をなとか説き伏せて、詰め寄られてもひたすらにしらを切りとおして、私たちは逃げるようにその場を離れた。
誰も喋らない。もっくんは昌浩の腕の中で、垂れた耳はぴくりとも動かない。
昌浩がそっと声をかけているのがわかったが、私はひたすらに先ほどのことを考えていた。
今日のうちにでも高於のもとにいるであろう空を問い詰めに行かなくては。
考えているうちに安倍邸についた。
なんでこういうときにだけ早く着くのだろう。

安倍邸の門をくぐると、入り口の妻戸に晴明様と六合がたたずんでいた。
昌浩が思わず立ち止まる。



「じい様…、」



晴明様はついと手を伸ばす。



「紅蓮、おいで。」



もっくんの背がぴくりと動いた。
晴明様は静かに続ける。



「じい様は、紅蓮と話がある。昌浩、お前は部屋へ戻っておいで。」



晴明様の顔を極力見ないように、昌浩がもっくんを預ける。
晴明様がもっくんを連れて奥へと消えていく。
私はその場にたたずんでいる昌浩をちらりと見、六合によろしくと小声で頼んでから、今くぐった門をもう一度外に出る。
すると、後ろに知っている神気が降り立った。玄武と太陰だ。



「どこいくのよ!」



目の前に顕現し、怒鳴ってくる太陰に苦笑してこたえる。



「ちょっと、私のことを聞きに、ね。」

「咲夜のこと…?」



意味が分からないという体で玄武が呟く。
わからなくて当たり前だろう。本人にさえわからないのだから。



「というわけで、太陰。風で貴船まで運んでくれないかな?」

「…そんなことしたら、晴明に怒られるわ。」

「帰ってきたら、私の我が儘で無理に運んでもらったって言っておくから。」



ね?と拝めば、少しうろたえる太陰。んー。駄目か。
半ば諦めかけたとき、それまで渋面で黙っていた玄武が口を開いた。



「連れていってやったらどうだ。」

「玄武!?本気で言ってるの!」




目を見開いて唖然とする太陰。
吃驚。玄武は絶対反対してくると思ったのに。



「咲夜自身のことを聞きに行くのだろう?それが…過去に関係しているかもしれん。」

「あ…っ。そうよね…」



納得がいったように太陰は手を打つ。
そして、そうと決まれば、といった顔で私の方を向いた。次の瞬間には、私は太陰の風に包まれ空を移動していた。

**********

「あ、りがとう…。」

「だらしないわね!」

「そんなこと言われても…。これは、さすがにきついよ…。」



目が回った。コーヒーカップでいい気になって回しまくった時と同じくらい目が回った。
確かに太陰の風は自分で移動するよりかは遥かに速いのだが、目は回るわ、喋ろうとすると舌はかみそうになるわで散々な事が発覚した。もう絶対頼まない。
ああ、けど緊急時はとても頼もしいから、緊急の用じゃない限り、太陰の風はご遠慮願おう。心の底から思った。



「さて、行くか。」



高於の――空のもとへ。

**********

「高於の神。空はいるかしら?」

《…何だ。》



巌に降り立った高於に問えば、やはり、というか。高於の後ろから子供の風体をした空が現れた。
私の後ろには顕現した玄武と太陰がいる。



「空は、どうして私が守護者に選ばれたのか、知っているの?」



直球で聞いてくるとは思わなかったのだろう。一瞬呆気に取られたようだったが、すぐにいつもの大人じみた顔に戻る。



《――知っている、ということになろう。》



やっぱり。



「教えてくれないかな?それは、私に関係あることなんでしょう?」

《………。》



しばし逡巡してから大きく息を吐くと、空は口を開いた。
…まだ、喋るときではないかのような感じだ。



《貴様を選んだのは、時を司る神に仕える神子様だ。》



神子様?そりゃまた…偉い人が。
妙な所に驚いていると、空がちゃんと聞け、と目で怒ってきた。聞いてるわよ!



《守護者とは…まあ早い話が後継者決めだ。今まで何人かの後継者候補が守護者として多様な時空に送られ、守護者としてあるものを守った。》



…じゃあその人達にすればいいじゃない!



《そうもいかなかったのだ。》

「エスパー!?」

《…顔にかいてある。いいから黙って聞いておけ。》



怒られた。いつの間にか、高於も玄武も太陰もじっと真剣に聞いていた。



《そやつらは、確かに守護者としての任は果たした。しかし、見守る中で神子様はそやつらに神子たるものの資格がないと判断されたのだ。これではいつまでも後継者は決まらない。しかし、これまでのように仕えることはもう神子様にはできない。そこで、貴様に白羽の矢が立ったのだ。》

「え、なんでその流れで私?」

「そうよ。咲夜まったく関係ないじゃない。」

《貴様のその力だ。人間が持たぬ力。それに神子様は賭けたのだ。》



っ!…そうか、今の神子様は私の力を知っているのか。



「…咲夜の力というのは、一体何なのだ?」

《それは我にはわからぬ。神子様ならば、こたえを知っておられるだろう。》

「じゃあその神子様に会わせて!」

《それは無理だろうな。》



今まで黙っていた高於がそうこたえた。



「なん、で…!」

《時の神子は時空を行き来していると聞く。会うのは難しいだろう。》

「そんな…、」



太陰が、どうにかならないの!?と聞くが、高於は沈黙をかえすだけだ。
せっかくヒントがつかめたと思ったのに…!
ぐっと拳を握る。
それを見たのだろう空が渋々といった声音で口を開いた。



《…神子様は、貴様に会いに来ると言っておられた。すぐ、とは言わないが、近いうちに来られるだろう。》

「本当!?」



いきおいよく空を見上げると、頷いたのが確認できた。



「よかったわね!」

「来たかいがあるな。」



玄武と太陰が一緒に喜んでくれる。
ああ、二人ともいい人!
ありがとう。と空と高於に言おうとした。が。



「!」



瞬間、衝撃が胸を貫いた。
冷たく凍えるような感情が突き上げてくる。
これは、恐怖だ。でも私のではない。

いったい、誰の――…?

太陰が焦ったように叫ぶ。



「あの化け物の妖気だわ!」



じゃあこれは、防人の感情…!
ということは昌浩が貴船に来ている!?



「行こう、二人とも!…このように御前を離れるのをお許しいただけるか?」



高於は黙然と頷いた。
それを確認して、私と玄武と太陰は妖気がある方へと走り出した。



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廻る廻る



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