「うーん…何がいいかなあ?」
《どうかされたのですか?市などに…》
市の店で悩む私を見て、太裳が聞いてくる。
まぁ、いきなり市に来て品物見てうんうん唸ってたら不思議に思うよね。
それに、あんまりたいした問題じゃないしどうでもいいんだけれど。
「私って、よく考えたらいつも身に着けていられるようなもの持ってないんだよね。」
それがどうした。って顔で太裳がこっちを見てくる。
むこうのアクセサリーだったらあるけれど、ここで着けるわけにはいかないし。
私は苦笑して、目に留まった勾玉の首飾りを手に取る。
「いつも身に着けていれば、自然とそれに力が宿っていくの。いざというときのためにいるな、と思って。」
私の場合、今は髪に一番霊力が溜まっている。
いつも首にかけている勾玉には、なぜか霊力が溜まらないので厄介だ。
話しながらも首飾りを見ていく。
うーん…これっていうのがないなー。
次の店に行こうとすると、太裳がやんわりと止めてきた。
《…買わなくとも、よろしいですよ。》
「何で?」
太裳の方を見て、首を傾げる。
欲しい理由を知っているのに、何故止めるのだろう?
《私が翁に頼みます。》
「…え?」
翁って…天空!?
いや、たしかに天空なら作れるだろうけど、それだけのために頼むってのも…。
「いや、やっぱ自分で買うわ。なんかそんなことで迷惑かけたくないし。」
《そうですか?…その、申し上げ難いのですが…》
太裳が言い難そうに言いよどむ。
え、何?顔になんかついてる?
わたわたと顔を手で払えば、それを見た太裳は微笑し、そうではありません。と言った。
「顔じゃない?髪の毛?」
《そうではなく…首飾りなどを買えますか?》
「…げっ」
始め、何を言っているのかわからない。という顔をしていたが、太裳が値段を指すのを見て、顔を顰めた。
そうだ。お金持ってないじゃない、私。
だから太裳は天空に頼んでくれるって言ったのか…。
「教えてくれてありがとう、太裳。」
《いえ。やはり私から翁に頼みましょうか?》
微笑んで聞いてくる太裳に、少しの間考えて。
「うん。お願いできるかな?」
頼むことにした。
《はい。》
「…迷惑かけてごめん。」
はぁ、と息を吐く。そうだよ、陰陽寮で思いついたんだから、買うためのお金なんて持っていないのだった。 始めに気付こうよ、私。
太裳は少しへこんでいる私に「戻りましょう、騰蛇達も帰ってきているでしょうから。」と声をかける。
私は返事をして市を後にした。
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始終小声で喋ってました。