胸の奥でたくさんの想いがさざめいている。
悲しいのは、もう会えないとわかったから。
辛いのは、遺していかなければならないから。
切ないのは、願いが叶わぬものだと知っているから。
そして、苦しいのは、約束を守れないから―…。
「―えさま!姉様!!」
「…え?」
目を開けると、昌浩が心配そうに覗き込んでいた。
私…どうしたんだっけ。
「昌浩が気が付いたと思ったら、今度はお前が倒れたんだ。」
「あ…そっか。」
見たんだ…視たんだ。
わかったんだ。
帰りたいと願うわけは、まだはっきりとはしないけれど。
この防人は、約束が、大切な約束を、守れなかったんだ。
だから、こんなにも胸が苦しいんだ。
「…相談、してみようかな。」
「え?」
「ううん、何でもない。それより、私どれくらい気を失ってた?」
「半刻も経っていない。」
半刻…昌浩が気失ってた時間と合わせて…一刻半?
ものすごく時間経ってるじゃん!
「ご、ごめんっ!私のせいで遅くなっちゃったよね!?」
「大丈夫だ。心配はいらない。」
「いや、でも…。」
「気にするな。」
「…うん。いや、んー…でもやっぱりごめん。寒く…ないか。」
「結界を張っていたからな。」
結界まで張ったんだ…。
六合の長布は私が羽織ってたから、昌浩が寒かったんだろうな。
…何してるんだろ、私。
「あー…だからな、あまり気に病むな。そもそもだ、敏次が敵味方の区別もつかないのが悪いんだ!」
「「「………。」」」
ものすごくもっくんの怒りが振り出しに戻った気がする。
私を励ましてくれてるんだよ…ね?こう言ったら何だけど、嬉しいかも。
初めはすごく敵意剥き出しだったから。
ありがとう、と言うと何故か顔を逸らされた。…軽く傷ついた。
それでも励ましてくれたことが嬉しくてすぐに立ち直ったけど。単純とか言わないの!
はあ、と息をつきながら、昌浩はもっくんの首を掴まえて安倍邸に向かって進み始める。
冬の夜明けは遅い。真っ暗だ。
今何刻ぐらいなのかな?
空を見上げて見るが、現代っ子の私には当然の如く何刻かわからない。
バッグに時計入ってたかな。
「あのさ、今何刻ぐらいかわかる?」
「えっと、今は…」
昌浩は立ち止まって東の空を見上げる。
その瞬間、わっと群がる影。
咄嗟に私ともっくんは飛び退いた。
「わーっ、孫だーっ!」
「わーっっ!」
…どっから湧いてきたの。
昌浩がどさどさという音とともにだんんだんみえなくなっていく。
「ううっ、哀れな。恒例行事とはいえ、帰りがけに来るとは…。」
いつもは帰りがけには来ないのか。やっぱり恒例行事なのか。大変だなー…。
「お、誰だー?」
「こんにちは。咲夜だよ」
「孫の姉っていうのだなー!?」
情報早いね。無邪気に騒ぐ雑鬼達。ああ、癒される。
「噂通り綺麗だなっ!」
「あはは、煽てても何も出ないよ?」
昌浩を潰したまま喋る雑鬼達。潰されたままで大丈夫なのかな。
…ああ、そういうえば昌浩達と初めて会ったときも潰されてた。
「お、そうだった。物忌みだって言うから控えてたんだけどさー。」
コロッと昌浩の話に戻った。どこまでもフリーダムは脳内だ。
「出歩いてるって聞いてなー。」
「急いで来たってわけだ。」
「いやはや間に合ってよかったぜ。」
「なっ、孫っ!」
孫だけ大合唱。
昌浩は目を半眼にして、声もなく深々と息をついた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
雑鬼可愛いよ雑鬼^p^