「うああぁぁぁっ!」
「なっ!?」
私達ははっとして視線を走らせた。
夜行が四方に広がって検非違使達を取り囲みじりじりと追い詰めている。敏次殿は退魔の呪法で必死に覆い尽くそうといている膜を弾き飛ばしていた。
「まずい、あのままじゃ全員食われる!」
「っ昌浩!?」
私が叫ぶと同時に六合が昌浩の腕をつかむ。
「待て!今飛び出したら、助けても何してるかを絶対に問い詰められるぞ!」
昌浩の前に回ったもっくんの叫びに、はっと息を呑んだ昌浩。
それを尻目に見ながら、私は敏次殿達の方を向いた。
駄目だ。恐怖で凍りついた喉は、もう言葉は紡ぐことすらできないだろう。
唯一敏次殿だけが応戦している。
「―だめだ!ほっとけないよ!」
「昌浩っ!」
私が短く昌浩の名を呼ぶと、何故か三人がこっちを見る。
三人をしっかりと見据えて、私は今思いついた案を言った。
「私が行く。今は巫女装束だから、言い訳もしやすい。」
「「「だめだ!」」」
「なんで!?」
私が思いついた案はコンマの早さで三人に却下された。感心するほど即答だった。OKされると思ってたのに。それに昌浩にまで反対された。
「姉様を危険な目にあわせられません。」
「危険だ。」
「あれ以上あいつに迫られたいのか?」
昌浩と六合は心配してくれてるとして、もっくんはなんで陰陽寮でのことを知っている!?
大丈夫、昌浩。危険じゃないから。
「私強いけどなー…。」
小さくぼやいてみても効果はなかった。
「姉様はここで待っといてください。―六合、これって、徒人にも見えるものか?」
「ああ、これ自体が力を持っているから、そう念じれば…」
「貸して!」
はい、と私が六合に掛けてもらっていた長布を昌浩に渡す。
昌浩は長布をかぶり、二人が言葉を失った一瞬の隙をついて飛び出していく。
「…どこぞの夜盗がああいう出で立ちをしていた気が…。」
唖然とそれを見送ったもっくんが言う。
ああ…大きな一枚の布で顔と上半身を覆って太刀引っさげてかつあげしてるあれね。
立ち直ったもっくんが昌浩の後を追おうとする。
私は行っちゃ駄目だよね、怒られるよね。
「騰蛇。」
そんなもっくんを六合が呼び止める。やけに硬く、真剣な声音だ。
もっくんは振り返って六合を見据える。
六合は方膝を折り、滅多にないほど険しい表情で言った。
「―笠斎が、生きている。」
「……ばか…な…!」
笠斎?
「声を、聞いた。あれは確かに、笠斎のものだった。―奴は、生きている。」
空気が重い。皆の過去に何があったのかわからない。わからないけど。
笠斎って誰?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここに来てからまともに戦った描写をされない咲夜ちゃん\(^o^)/