夜、築地塀をよじ登って出る昌浩ともっくん。
もちろん、私もついていく。
頑張ってオプション並に普通に付いて行けれるようになりたい。



「今夜は六合が護衛!」

「…よくまた説得できましたね。」

「んー?ああ。」



昌浩がなんのことを言っているのか一瞬わからなかったが、六合と私を交互に見ているのでそういうことか、と納得する。
青龍のことか。あれはだってほら。



「諦めてくれたから。」



盛大な溜息とともに。



「…初めてアイツに同情したぞ。」



失礼な。少しむかっと来たので、もっくんのもふもふした頭を軽く小突いてやった。
すっきりしたので軽い足取りでるんるん歩いていたら、後ろからもっくんの復讐にあった。
覚えてろよちくしょう。



「あ、なんだよもっくん、その態度は。」



内心でめらめらともっくんへの仕返しを考えながら歩いていると、じっともっくんを見ていた昌浩が不満げな声をあげた。



「うるさいうるさい、お前の考えなどお見通しだぞ、晴明の孫っ!」

「孫言うなっ、いいじゃないか物の怪のもっくんっ、その毛皮は飾りかっ!」

「俺がこの姿をしているのは、そういう意図と違うわっ!」



また始まった、昌浩ともっくんの喧々囂々な口喧嘩。
でも昌浩が言うように、確かに寒い。



「…もっと着てくればよかったか。」



今の私の姿は巫女装束。一応下に半袖を着てはいるけど、寒い。
自分の体の耐久度を過信し過ぎだった。



《掛けておけ。》



声と一緒に長布が肩にかかる。あったかい。
後ろを向くと、六合がこっちを見ていた。



「ありがとう。」

《…いや。》



にっこりとお礼を言うと、小さく笑みを浮かべてそう言ってくれた。優しいな。
なんて私と六合がほのぼのした空気を醸し出していると。



「っ!?」



風の向きが急に変わった。



「朱雀大路、か…?」



呟いて、昌浩が走り出す。
もっくんも続いて即座に地を蹴る。
二人の姿が闇に紛れていってしまった。



「六合!」



二人を追いかけようと、六合に呼びかける、が返事がない。六合…?
不思議に思って、私よりも高い位置にある顔を見ようとしたのと同時に、六合は弾かれたようにして振り返る。
な、なに?私も六合の視線を辿りながら振り返った。



「…女の人?」



が、双頭の鴉に怒られてる。
な、なんてシュールな光景…っ!



「……、…よいな!」



辛うじて聞こえた鴉の声は少しひび割れていた。
え、なに。鴉って喋れたの。
六合は未だに硬直している。そんなに喋る鴉が珍しかったのだろうか。
…さっきの女の人に一目惚れしちゃったとか?



「―まさか、あの男が…!?」



違ったようだ。一目惚れじゃなかった。
見上げた顔の、あまり感情を宿さない黄褐色の綺麗な瞳が不穏に揺れたのを見た。

**********

「魂っておいしいのか?肉のある人間の方が、よっぽど食べがいがあっていいんでは。」



どういう流れでその発言なの昌浩くん。
やっと追いついた私と六合。気配を感じたのか、昌浩が振り返らずに問う。



「何かあったのか?」



私じゃなくて、六合に。
六合は答えない。昌浩が振り返ると、私の隣にいた六合が顕現した。
私は穏形している十二神将が見えるから、六合がどんな顔をしているのか知っていた。



「…なんだか、怖い顔してる。どうしたんだ?」



六合は昌浩に向けていた視線をもっくんに向ける。
それを受けたもっくんは怪訝そうに眉を寄せた。



「なんだ?物言いたげな顔だな、おい。」

「…騰蛇、お前に」



しかし、六合の言葉は絶叫に掻き消された。





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