青龍も太裳もだけれど、どうして私が夜警に行くのを嫌がるのだろう?
一回目はちゃんと着いて行こうとしたら、時とか言う人に異界に連れていかれたけれど。
その他は、脱走しようとしたのを捕まったから出てないわけで。



「うー、私も行きたかったあ!」



昌浩が物忌みで夜警には行かないって言うから「よし、かわりに」と行こうとしたら見事、太裳さんに捕まりました。
青龍から出すなと言われているらしく、出ようとすると見事な真っ黒い笑顔で止められます。
…普段は優しいのに。



《出仕するようになったら自由に外に出れますよ。》

「そうは言うけどさあ、私だって夜警に行きたいんだもん。できれば昌浩と。」

《それは…青龍が居る限り無理じゃないでしょうか。》

「なんで!?」



それって、一生無理ってことじゃない。



《…何故でしょうね。》

「…理由はわからなくもないけど。」



どうせ、騰蛇と一緒なのが気に食わないんだ。敵視してるから。
だからって、私まで巻き込まないで欲しい。私はもっくんや昌浩ともっと仲良くなりたいの!
そういうと、太裳が困ったような表情で苦笑した。
…どうしたんだろう?私なにか変なこと言ったかな。



《もう寝てください。明日から出仕ですよ。》

「はーい。」



返事をして横になる。


目を瞑ると広がるものがある。

お父様の顔と何も映していない騰蛇の瞳。
紅い炎。

これが私の過去だということはよく分かる。
夢に見たとき小さい頃の私がいた。
私が安倍の子孫だから、十二神将が私の家にいたとしても不思議じゃない…と、思う。
でも十二神将は晴明様しか主にしない、んだよね?
ああ、騰蛇は別。どうせ昌浩だろうし。
だったら私が安倍の血筋でも、主になるとか関係なく、主にはなれないよね。

うーん…。謎だ。

それに、ここ数年はマンションで一人暮らしだったし。
聞いた話しでは家は全焼していないらしい。
夢で見た限り、燃えていたのはあの部屋だけだったし…。

うーん…。謎だ。

ふ、と意識が闇に落ちかけた。
小さくため息をつく。
寝なくちゃ、いけないんだよね。
こっちに来てから、よく見る昔の夢のひとつに、お母さんもお父さんも生きていて、皆で楽しく笑っている場面がある。
その夢を見た日は、起きてから無性に泣きたくなる。
けれど、私にはなんで泣きそうになるのかわからない。
記憶なんてないし、泣く意味だって分からない。
ただ、痛いぐらい胸が締め付けられる。
その幸せな場面の中に知らない青年がいた。
黒い髪に漆黒の瞳。端整な顔立ちで髪は後ろで括っていた。その青年に、私は笑顔を向けていた。
お父さんもお母さんも笑いかけていた。
誰なんだろう?親戚にはこんな人いなかった。

んー、謎だ。あれ、謎だらけだ。

もんもんと考えていると、だんだん眠くなってきた。
そして、知らない間に私は意識を手放して深い淵へと落ちてしまっていた。

**********

「…ん?」



気持ちよく眠っていたら、昌浩の部屋の方から神気が漂って来たので目が覚めてしまった。
しかも、よく知っている神気だ。



「高於じゃない。」



こんな夜更けにどうしたんだろうか。
そっと起き上がり抜き足差し足で部屋を出る。



「…彰子?」



近づくにつれ、もっくんと高於と、彰子の気配があるのがわかった。
高於、彰子に変なこと言ったりしてなければいいんだけれど…。



「…た、何か…な。…する間も…よ。」

「………?」



二人の話し声が聞こえた。
そこで私の悪戯心がうずかなくていいのにうずいてしまった。
気配を消して、音もなく二人の元へとさらに近付く。
十分近付いたところまでくると、わざと少し大きな声で、



「なになに?何があるの?」



私が二人に声をかけると、もっくんはびくりと肩を震わせ吃驚した様子でこちらを見た。



「咲夜!?何時の間に…!」

「久しいな。この間は面白いものを聞かせてもらった」



驚いた様子のもっくん。
どうやら気配はまったく感づかれていなかったようだ。
夕日色の瞳を大きく見開いてこちらを見上げてきた。
ちくしょう、可愛いな。

それに対して高於は感づいていたようで、反応が普通だった。



「いえいえ。あの餓鬼に言いたいこと言っただけですから。」

「あの、咲夜…?」



ん?見ると、彰子がこちらを見ていた。
なんでそんなにがちがちに固まっているんだろう。



「知り合い、なの?」



誰と、とは言葉にされなかったけれど十分わかった。



「うーん、どうなんだろう?私がいた世界では親しかったけれど、こっちではこの間が初対面だったし…。」

「向こうで親しかったのか?」

「うん。毎日のように行ってたし。」



言葉をなくすもっくんと彰子。
高於はただ笑うだけだ。昌浩の姿で。
昌浩の姿でのニヒル笑いは若干引くものがあると気付いた。半端ないくらいの鳥肌が。



「ならば、高於と呼んでいたのか?」



向こうの自分も、と高於は言う。



「そうだね、呼んでた。それに、何故か分からないけど、私の母のことをものすごく気にかけていた。」

「ほう…。なるほどな。」

「ああ、そろそろ昌浩が限界だよ?」



昌浩の姿だからかどうかわからないが、敬語ではなくなった私に何も言ってこない高於。
敬語じゃなくてもいいということだろうか。



「そうだな。ではまたな。」



フッと、昌浩の体から凄絶なものが抜けた。
ああ、本当に龍だ…。空を見上げながら、しみじみと思う。



「あ、彰子が昌浩受け止めたの?ごめんね、手伝えなくて。」

「いいの。」



昌浩がどうなったか見ようとしたら、彰子が昌浩を支えていた。
ああ確か、高於が来た次の日って。
私の頭の中で読んだ書物のページが捲られていく。
お目当てのページの記憶にたどり着いて、人知れずにやりと笑った。
どうやら今日の私の頭は冴えているようだ。
いいこと思いついちゃいましたよ、奥さん。



「彰子って昔のこと確か全然知らないでしょう?」

「え、ええ。」

「もっくんに教えてもらいなよ。いいでしょ?」



もっくんの方を見る。無言でOKしてくれた。頷きが可愛い。



「それじゃあ、私はこれで。」



ばいばーいと手を振りながらその場を離れる。
明日の朝が楽しみだなー!



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