「咲夜っ!」

「昌浩?どうしたの、そんなに急いで。」



部屋からのんびり庭を眺めていたら、陰陽寮から戻ってきたのか昌浩が部屋にやってきた。
何故かとても血相を抱えて。
一体何があったんだ。



「敏次殿が…」

「敏次って、あの呪詛行った陰陽師さん?」



私の孫騒動から三日後。
明日から陰陽寮に出仕することが決まった。
体調は完全回復。このまま回復しなかったら、どうしようかと思った。



「敏次がお前に惚れたそうだ」



昌浩の後ろから出てきたもっくんが、苦虫を潰したような顔で言った。
この頃は敵視してこなくなって少しは仲良くなれたかな?なんて思ってる。
いまだに夢のことを引きずっている私が時折びくついてしまうけれど、気にするなと言ってくれていて、理由も聞いてこない。
ああ、やっぱり優しいじゃないか。怖くないじゃないか。
それでもやはり夢は繰り返し私に奇襲をかけてきていて。
朝に出会うと私が一方的に気まずくなってしまう。
そんな私が頑張って絶賛仲良くなろう計画を実行に移している相手から、なにやら爆弾発言が投下された気がしたんですが?…ちょ、まて。



「今、なんて?」
「敏次殿が咲夜に惚れたって…。」



昌浩ともっくん曰く。
今日陰陽寮で敏次殿と会ったときに自分を助けてくれた女人に惚れた、と聞かされたらしい。
昌浩達は天一のことかと思ったまま相手の容姿を聞いたら、私のことだった、と。



「面倒くさいことに…。」

「寮に行く度に話しかけてくるだろうな。」



他人事のように言うもっくん。いやまあ、実際他人事なんだけれど。
少しは同情してほしい。



「あれ?そういえば青龍は?」



いつも私の傍にいる青龍がいなくて、不思議に思ったのか昌浩が聞いてきた。



「晴明様のところだよ。今の私の護衛は、」

《私が命ぜられています。》



私の後ろににっこり笑顔の太裳が顕現する。



「あ、それと私今から市に行くから。詳しい話は後で聞くよ。」



なにをどう詳しくかはわからないけれど。
うん、わかった。とこくりと頷く昌浩がどうしようもなく可愛くておりゃおりゃと頭を撫で、もっくんからの視線が痛くなったところでやめた。
なにするの!?と赤くなって照れている昌浩は私の癒しだ。
あはは、と笑って部屋を出る。



《何か買われるのですか?》

「いや、何も買わないよ」



では、何故?と心底不思議そうに訪ねてくる太裳に微笑みを浮かべる。
お金は持っていないけれど、市の雰囲気は好きなんだ。
見てちるだけでこっちまで楽しくなってくる。
私はああいう雰囲気が大好きなんだ。
そう言うと、そうなんですか。と優しく微笑み返された。
ああ、太裳は話しやすいなあ。どこかの仏頂面とは天と地の差があるよ。

その日の市探索はいつもより楽しかった。
太裳と話しながら回るのがこんなに充実するとは思っていなかった。


今度から市に行く時は太裳を誘おうかな。


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太裳さんが護衛とか羨ましい^^^



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