「外出禁止はやめて下さい!」

青龍が見張っているから、外に全然出れていない。酷くないですか?
青龍曰く。

「貴様はすこし目を離すと危険だ。」



だそうで。
私は犬か!?犬かなんかなの!?



《……煩い。》
「ごめんなさい。」



確かに一回行方不明になったけど。あれは時が悪いのであって私に非はない。と思いたい。
それと、外出禁止+騰蛇と接触禁止もやめてほしい。
いや出されてないけど、それとほぼ同じなんだもん。

そりゃあ、私は騰蛇には嫌われてますよ?
夢での出来事が気になって、私も若干避けている節はありますよ?
けどさ、けどさ。それでも頑張って仲良くなろうとしている私の努力が報われないじゃない!



《っ…!》

「青龍?」



ぶーぶー私が心の中で愚痴っていると、青龍の雰囲気が変わった。
焦っているというか、驚いているというか。



《晴明…っ》



成る程。青龍の切羽詰ったような声で理解した。
晴明様が何か動いたのだろう。
それと同時に私も意識を都全体へと向ける。ざわざわと空気が揺らぎ、何かが覆い隠そうとしていた。

ああ、なんだろう。凄く嫌な気配がする。
晴明様は、これを取り除くべく、向かわれたのだろうか。
青龍は、追い掛けたいのだろう。隣に居たいのだろう。
青龍の一番は、晴明様だから、心配なんだ。



「早く行って。晴明様が心配なんでしょう?」

《………っ!出るなっ!》

一言だけ言って、出て行く青龍。私は目を見開いたまま、固まってしまった。

出るなっ、て…。

そんなに信用ないのかな、私って。
けれど、都に不穏な影があることに気付いてしまったのだ。私だって、見逃すわけにはいかない。
青龍には悪いけれど、私も解決に出向かせて貰おう。

出るなって言われているから、罪悪感があるが、この異常事態を見逃せるほど私も酷い人間ではない。
狩り衣に着替え、塀を攀じ登る。



「え、と…瘴気が溜まっている場所は…、」



あっちだ!

**********

…迷子になりました。
ええ、迷いましたとも。
此処どこ?
……えーい!闇雲に走っとけ!!全ての道はどこかに繋がっているんだ!!
感じる瘴気だけを頼りに、京の都を縦横矛盾に駆ける。
しかし現代っ子には体力的にきついものがあった。
暫く走り続け、体力の限界が見えて来た頃。



「こ、れは…!?」



暫く嫌な感じがしている方向へ走っていれば、最悪なものを見つけてしまった。

呪詛。

また面倒臭いことになっている。よりにもよって呪詛なんて…。
陰湿なことこの上ない。
この場合なにをするべきか。
そんなこと決まっている。



「根ごと断つ!」



狙うは呪詛を行っている呪術師。
地を蹴る力を強める。



「此処だっ!」



呪詛の気配を辿って行けば、寂れた納屋に着いた。
中には円が描かれており、その中央には男の姿がある。
そして周りには、障気で造られた妖。ああ、とってもやばい状態。



「っ!出ちゃだめ!!」



威嚇をされ、円から呪術師であろう男の手が少しだけ出てしまった。
反射的に私は男の目の前に飛び込む。



「うっ!?」

「あっ…!」



体の中に、何かが…っ!!
悪意、殺意、憎悪、怨恨、妬み、妬み、恨み、怨み、憾み。にく、い。にくい。憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
人間の負の感情が、身体の中を縦横無尽に駆け巡る。
頭が割れそうなほど内側から強く叩かれ、胸がぎりぎりと締め付けられ、四肢は鉛のように重い。
駄目、意識が…、

「咲夜様!?」
「て…い、つ」

倒れかけていた私を、駆け付けた天一が支えてくれる。
金色の髪がなびいて、綺麗。本当の天女みたい。

「今すぐに、私の方へっ!!」

目に見えて焦っている彼女が、叫ぶように言ったその言葉に、私は微かに眉根を寄せる。そんなこと。

「だめ…に、決まってる!!」

それに瘴気だから、移せない。と、思いたい。
見上げた天一の瞳は、自分の力の無さに悲しんでいた。
とても、悲しくて、儚い色を宿している。

「だ…じょう、ぶ…」
「咲夜様!!」

大丈夫だよ、これは私が自分でしたこと。天一が悔やむ事じゃない。
そう言ってあげたい。でも、声がでない。
天一よりも私の方が不甲斐ない。
これしきの事でへばって、天一に心配かけて。最悪。

「天貴。少し休ませてやれ」

後ろから声が聞こえた。
天一をもう一つの名で呼ぶのは、朱雀だけだ。

「や…、」

力なく笑う。
朱雀はそんな私を呆れたような眼で見てきた。
酷いな、頑張って心配かけまいとした私の気持ちも汲んで下さい。
ああ、そういえば、と思い天一の方を見る。
やはり、天一は傷だらけだった。

「オン、アバヤ……」

天一の方へ手を伸ばし、呪言を唱える。
唱え終わると同時に、天一の傷が完全に消えた。

「咲夜様!?」
「これ、で…も、平気…」

意識が途切れる間際。
私の周りを暖かい気が包んだ。後で朱雀にお礼言わなければ。
そこで私の意識は完全に切れた。

**********

目を開けると、そこには大層怒った様子の青龍さんが立っていた。
目は庭の方に向いているから、私が起きた事には気付いていない様子。
やばい、凄い怒ってるよ、あれ。
いつもの倍は眉間に皺がよってる。

「お、おはよ。青龍」

少し体を起こして、青龍に声をかける。
その声で私が起きたのに気づいたのか、こちらを向く。
私の姿をみて、目を丸くした青龍はいきなり怒鳴ってきた。

「貴様は馬鹿か!?」

ちょ、開口一番が叱咤ってどういうこと!?
もう少し、労わりの言葉とか無いわけ!?
怒鳴った本人はというと、そのまま無言でどこかに行ってしまった。

「……何よ」

そりゃ、勝手に外に出て行って悪かったわよ。怒るのもわかる。
だからって…だからって…。
自分勝手だとは思うけど少しは労わりの言葉くらいかけてくれたっていいじゃん!
少し…いやかなり頭にきたので、傍らに置いてあった自分の服を掴んで、ばしばしと畳に叩きつける。

「咲夜っ!起きたって…」

部屋に入ってきた昌浩が私を見て目を見開く。その後についてきていた。もっくんも同じく目を見開く。私も硬直。

「咲夜…何してるの?」
「…なんでもないです」
「あいつはどうした」
「さあ?」

無言で消えたまま音沙汰無し。
いなくなってから数分しか経っていないけれど。

「あー、なんか騒いだら頭痛くなってきた…」
「あたりまえだ、まだ完全には回復してない」
「そうなの?」
「俺に聞かれても…」

もっくんの言葉に私は昌浩を見上げる。わからないらしい。

「でも、元気そうで良かった」

笑顔と共に言われた言葉に胸がきゅん、てなった。
罪悪感できゅん、て心臓が縮んだ音。

「心配かけて、ごめん」

昌浩は笑みを零しながら私の手を握った。
あったかかった。


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