「……何事ですか」

結局昨夜は昌浩様を連れ回したことを騰蛇様に鋭く言及され、そのまま疲れて寝てしまった。
青龍様が何か問おうとずっと視線を向けてきていたけれど、また明日にでも、としか言えなかった。
そうして朝、未だ慣れない部屋で目覚めると、視界の端でさらりと金色が揺れていた。
何度か瞬きをして上体を起こしてみれば、枕元に天一様、そして私を囲むように勾陳様と天后様、太陰様が居た。十二神将女性軍大集合である。

「えっと、何か御用でしょう?」
「特に用はないんです」
「晴明の命だ」
「そう、ですか…?」

気まずい。とてつもなく気まずい。会話が続かず手持ち無沙汰に髪を手櫛で梳いてみる。
部屋の中にこんなに人数いるのに、沈黙だなんて。どうすればいいの。
そっと気配を探ってみれば、外には朱雀様、青龍様の神気も感じられる。

「え、っと、昌浩様は?」
「出仕しました」

騰蛇様と六合様はいない、か。
一瞬どうしようかと逡巡した後、小さく青龍様の名を呼ぶと、少しの間を置いて襖が開かれた。

「…どうした」
「……昨日言っていた通り、説明したいと思って。騰蛇様と六合様が居ないですけど…」

白虎様と天空様、玄武様は晴明様の護衛なのだろう。もとより、天空様は異界より滅多に出てこないと書物に記してあった。
皆さんに一斉に説明した方がいいのだろうけど、出仕した後となれば仕方ない。

「ああ、ならばここに居ない者には、後から私が伝えておこう」
「ありがとうございます」

玄武様、朱雀様を呼んでもらえば、やはり囲うように腰を落ち着けられる。圧迫感がとても増した。
またも小さく青龍様の名を呼び、失礼を承知で一番近くに来てもらう。
眉間に皺を寄せとても不機嫌そうな表情を浮かべられたけれど、今一番安心できるのが青龍様なのだから許して欲しい。他の方とはあまり喋ったことがないのだ。

「えと、青龍様は少しだけ高於との会話を知っているのですが…」

正体不明のままは色々と不都合があると思うし、丁度いい機会だ。
どちらにせよ隠し通せるものでもないし、いっそのこと話してしまおう、と。
もともとそこまで隠すつもりは無かったのだけれど。

「改めて、名乗らせていただきます。私の名は安倍咲夜といいます」
「安倍…?」

全員、一様に怪訝な表情を浮かべ私を凝視してくる。ある程度予想はしていたのだろう青龍様だけあまり表情を変えず、先ほどと同じように眉間に皺を刻み続けている。

「てことは、咲夜は…」
「…はい。昌浩様や晴明様の子孫にあたります」
「……だから我らの姿が見えたのか」
「いえ、安倍の家系だといっても血が薄れ、全員が陰陽術を扱えたり見鬼の才があったわけではないようです。現に、祖父も父も親戚の方にもなかったようです」

これは、親戚の方に聞いた話だけれど。

「数代先の安倍家にも十二神将の皆様が居るとは言われていたけれど、それを視認出来る人はいませんでした」

十二神将。彼らを視認できる私がなれと言われた主。夢の中で父が言っていたけれど、過ぎた話し。
それに、なりかたすら知らない私がなれるわけがない。

「なぜ、すぐに明かさなかったんだ?」
「幼少の時…十歳までの記憶がないからです。父と母が事故にあい亡くなった時、精神的傷を負ったみたいで。安倍家についての事柄は全て親戚等からきいたものですから、詳しく自分の身を証明する説明が私にはできないのです」

その事故死も偽りだとつい最近知ったけれど。
幼い私は、気付いたら親戚の家に引き取られていた。だから、厳密に言えば安倍に生まれながら私は安倍家の直系の子孫として過ごしていたときの記憶がない。言及されても答えられるものを持っていないのだ。
引き取られた私は、自分のなかに閉じこもってしまい、友達なんて呼べるものはいなかった。
唯一の話し相手であり、安心できた場所は高於のもとだけ。
今思えば、よくもまああれだけ神様相手にため口使えたものだ。無知って恐ろしい。

「それは…、」
「本当なの?咲夜…」
「信じる信じないは別として、知っておいていただければと」
「…まあ、確かにそうなると我らを知っていたのも頷ける」

一応、似た説明を晴明様には既にしてあるけれど。あの方は特に驚いた様子もなく、頷いただけだった。
その後、何名かの神将様方は異界へと戻られた。残った勾陳様、青龍様、太陰様、玄武様はたまに席を外されたが、戻ってこられる。なぜかはわからないけれど、きっとそういう命令なのだろう。
ぽつりぽつりとだけれど普通に会話も出来、内心そっと息をつくことができた。
無意識に固くなっていたらしい態度も柔らかくなったんじゃないかと太陰様に言われる程度には私も緊張がとけたらしい。
暫くしてから思い出したように勾陳様がおっしゃられたことに思わず声をあげれるまでには。
なんでも明日からは護衛兼監視として青龍様がつくことになるそうだ。
…騰蛇様達と話せないんじゃないかな。


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