今日は三月十四日。
この平安の時代にその日に意味があるのかというとまあまずないだろう。
でも現代っ子の悲しい性かな。
何かあげなくてはと思ってしまう。
そもそも二月十四日に何ももらっていないのに返すというのもおかしい話だが、感謝の気持ちを表すにはいい機会だと思う。
早速台所へと行き、料理を始める。
この時代では作れるものに限りがあるので、まあ甘味だったらなんでもいいだろう。
定番はクッキーとか飴なんだけどなあ。
「美味しそうな匂いですね。」
「太裳。つまみ食いは駄目だからね。」
ひょこっと後ろに現れた太裳。
しないとはわかっているが、釘を刺しておく。
この人はたまに意外な行動をとってくるから心臓に悪い。
「それは残念です。」
いつも通りの爽やかスマイルでしゃあしゃあと抜かす。人間だったらもてるんだろうな。
「もう少しでできるから、待ってて。」
「はい。一番に下さいね。」
「あー…うん。わかった。」
そう答えるとなんとも素敵な笑顔を残して去っていく太裳さん。
一番にあげれるかなー。
会った人からその場であげようと思ってたんだけど。
最初に太裳を探しに行かなくちゃいけなくなってしまった。
ひとつため息を吐き、手元に集中する。
「…重いんだけど?」
「気にするな。」
「気にするよ!?」
ずしっと背中になにかが乗る感触がしたと思ったら、顔の横にざんばらの髪が見えた。
なんでもっくんの姿じゃないのかとか昌浩のところにいなくていいのかとか密着しすぎじゃない?とかそういうのは後回し。
「作業が進めれないんですが。」
「何を作ってるんだ?」
「無視かこのやろう。…甘味だよ。今日は十四日だしね。」
「何かあったか?」
「その説明は後でね。ほら、完成したら持って行ってあげるからあっちで大人しく待ってて。」
そう言うとぶつぶつ文句を言いながら体を離してくれた。
素晴らしいくらいに今体が楽だよ。
横で火にかけてあった鍋を掴む。
ちょ、思ったよりも重いこれ!
うぐぐ、と力を入れてみても持ち上がるのは数cm。なんのいじめだろうか。
「あ、」
悪戦苦闘していると後ろから伸びてきた手にひょい、と鍋を奪われた。
軽々と持ち上がる鍋。ちょっとむかつく。
「これはどこにおけばいいんだ?」
「…そこに置いておいてくれると嬉しいな。」
私が頑張っても火元から離れようとしなかった鍋は、現在私よりも小さい男の子に運ばれている。
子、と表現しても実際は私よりも断然長く生きているのだが。
私が頼んだ場所に鍋を置くと、こちらを向き不思議そうに聞いてきた。
「どういう風の吹き回しだ?」
「それはちょっと酷くないですか玄武さんや。私だって甘味を作るさ。」
「久しく見ていなかったが。」
「それはほら…気分の問題じゃないかな。」
そうですよ、面倒だったんですよ作るのが!
我ながらあんまりな理由だと思ってるよ!だからそんな呆れた顔で私を見ないで!
「餡、か。」
「うん。玄武って甘いの大丈夫?」
「嫌いではないが、甘すぎるのも考え物だな。」
いかん。見た目お子様だからてっきり甘いものは大好きだと。
「玄武ー!」
「お、太陰の声だね。」
「……、…。」
「そんな露骨に嫌そうな顔をするもんじゃないよ。早く行かないとまた怒られるよ?」
「はあ…。甘味、できたら持ってきてくれないだろうか。」
「勿論。」
頑張れーと鬱そうに去っていく背中に声援を送る。
なんだかんだでいいコンビの2人は私の心の癒しだ。仲良くしてほしいな。
「さて、最後の仕上げだー!」
「何がだ?」
「…ここまで入れ替わり立ち代りで来られるとどこかで見てるんじゃないかと疑うよ。」
首をわずかに傾げつつこちらに歩いてくる六合。
なんだろう。なんでこんなに神将たちが次から次へと沸いて出てくるのだろうか。
何だ。そんなに私の作業を邪魔したいわけ!?
まあ太裳は絶対確信犯だっただろうけど。
あとの紅蓮と玄武はわからないし、六合はたまたま通りかかっただけだろう。
「甘味、か。」
「うん。みんなにあげようと思って。」
「……、…。」
「疑わしそうに見ないでくれないかな。何も考えてないよ!」
くってかかると六合はふっと小さく笑う。
最近は結構笑ってくれるようになった。と思う。
思い過ごしかもしれないけれど。
「できたら持ってくよ。」
「…ああ。」
その後すぐ完成した甘味を持って太裳を探しに行った。
太裳に渡した後、紅蓮たちのところへ行くとどうして太裳が一番なのかと聞かれた。
最初にくれと言っていたからと答えると、なぜか悔しがっていた。
そんなに一番がよかったのだろうか。
確かに出来たてのほうが嬉しいけれど。
渡したときにはまだ甘味はできたてだったはずだ。
神将たちは、よくわからない。
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宵藍がいないのはあいつ新年夢で一人でばったから。