!If設定:夢主が妖見えなかったら





あのね、と君は嬉しそうに言の葉を紡いだ。


「今日、なにかが視界を横切ったの。あれは絶対妖だわ!」


義弟である昌浩に向い、身振り手振りを交えて熱く語る姿に小さく尻尾を揺らす。
きらきらと小さな火を反射させ光る瞳は童のように輝いている。


「でも追いかけたら見えなくなってしまったの。折角お話できると思ったのに」

「義姉様、追いかけるのに夢中で転んだりはしなかったですか?」

「わたしを童かなにかだと思ってない?」


苦笑しつつ言った昌浩の返しが気に入らなかったのか、頬を膨らませわかりやすく拗ねてみせる姿に目を細める。彼女はたまに心配になるほど表情が顔に出る。
くるくると移り変わるその表情が愛らしいといえば愛らしいのだけれど。


「ただ心配しているんですよ」

「なら、いいのだけれど。…ねえ昌浩」

「はい?」



「神将様は今もいらっしゃるのかしら」



その言葉に昌浩の視線が一瞬こちらに向けられる。小さく首を振れば、その瞳はすぐに義姉である咲夜に戻された。咲夜はなにかを探すように室内を見回しているが、終ぞ発見できず残念そうに肩を落としている。


「……居ますよ。いつも話している騰蛇が」

「おられるのね…。なぜわたしには見えないのかしら」


不公平だわ。と嘆く少女には、見鬼の才など欠片もなく、妖を見ることも感じることも出来ない。
その反動なのか、妖や見ることの叶わないものたちへの憧れが強く、昌浩が語る神将や妖の話を大層楽しみにしている。そうして、その度に傍にいるのか尋ねるのだ。尋ねては、見えない自分を嘆くのだ。


「昌浩が話してくれた六合様や玄武様…皆様とお話がしたいのに…」

「きっといつか会えますよ」

「そうだといいのだけれど…。あ、そうだわ。今日とても美味しい甘味処を見つけたの。そこのお団子を神将様方の分も今度買ってくるわね」


姿は見えずとも、一緒にお茶くらいは出来るだろうと。名案だと笑う。
けれど、楽しそうに、見たことのない神将たちの名前をあげていく咲夜の傍に歩いて寄り添っても、彼女は己に気づくことなく昌浩に話しかけるのだ。


「ふふ、騰蛇様には奮発しなくてはね。昌浩を守ってくださっているお礼を言わなくちゃいけないですもの」


眉尻を下げ、こちらを見やる昌浩の視線から逃げるように顔を逸らす。
ゆるゆると長く揺れる尻尾でやわらかく少女を撫でても、やはり気づかず笑い続ける。
妖に憧れる奇特なこの少女は、その存在を見ることが叶わず生きていかねばならない。
物の怪の姿で寄り添っても、神将たちが守るように隣に立っても、気づかぬまま、会いたい見たいと繰り返し続けていくのだ。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
その気になれば姿を見せることが出来る設定はなかったことに…(震え声)



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