Present for you a Mintchocolate.

Sometimes kindness cool.



藍色の場合



しんかんとした空気。
雲がぷかりぷかぷか浮いている空には太陽が「よう」と出ていた。よう。
暖かかった部屋から突然寒い廊下へと出たせいで、温度差に身体が置いてけぼりをくらう。

ぶるり。身震いをする。


む。そういえば上着を着ていない。
これじゃあ渡しに行っても怒られてしまう。

いそいそと今さっき出たばかりの自室へと戻り、上着を羽織る。
まだ暖かい部屋から出たくなくなったけど、人間には行かなければならないときがあるんだよ…!


上着を着た効果のお陰で、廊下は先程より寒く感じなくなった。

さて、早速探そうかな。
脳内で宵藍が居そうな場所をピックアップしていく。


じい様の部屋、異界、滅多に居ないけど中庭。
んー、あとは…、



「屋根の上、かな。」



ちろり、天井を見上げる。

うずうず。うずうず。
登ってみたいな。登ってみようかな。
宵藍探しも出来てまさに一石二鳥。

うずうず。うずうず。
登りたいな。登ろうかな。


きょろきょろと辺りに人が居ないかを確認。

右よーし、左よーし、もっかい右よーし。
指差し確認終了。

実行に移しても大丈夫なようです。


いっせーの、せ!ジャンピーグ!ぴょんっ。

中庭に下りて手頃な木に手をかける。



「よっ。」



枝から枝へ。
幹にあるくぼみや太い枝に足を乗せながら登る。

おお、私今とっても野性児チック。



「うわ…いい眺め。」



始めて登った安部邸の屋根からは京の街がよく見えた。

歩く人、走る人、売る人に買う人。牛車に籠。
沢山の人が見える。

これってもしかして絶景ポイント…!



「何をしてる。」

「おわあ!?」



人の歴史の一部分を垣間見たような感動を噛み締めていると、後ろから声をかけられた。

あ、危うく屋根から落ちる所だったよ…!
死因転落死とか笑えない。


頑張りまくって若干鼓動が早過ぎる心臓を押さえながら後ろを向けば、やはりと言うべきか。眉間に皺を寄せた宵藍がいた。



だから取れなくなっちゃうって、皺。



「ほーら笑って笑って。」

「会話をしろ。」



今更だよ、宵藍。


ええと、なにしてるかだったよね。



「宵藍を探してたの。」

「…俺を?」



なんでそんな不審な目で見るの!?
別にやましいことしようとか企んでるとかじゃないから!
むしろあったら宵藍との接触を全力で回避してやんよ。

て、違う違う。

今回は宵藍から言われてたから探してたんだよ!
なに、その「俺何かお前に言ってたか?」的な顔!
言われてたから私はさっきまであんなにうんうん唸って…!あ、宵藍には言われてなかったかも。
あれ、どうだったっけ。まあいいや。

大人しくさっさと用件を済まそうじゃないですか。
今日は大人しくする日なんです。
大人しくしますよー。今決まりました。


なんてったってバレンタインだからね。

前言われた大人しくしてろ、という願いを叶えてあげようじゃないか。


とりあえず手、出して?



「いつも私の我が儘聞いてくれている貴方へ!ありがとう!大好き!」



出された手に渡された私的宵藍カラーの藍。

ほら、宵藍のらんは藍だし。
青でも良かったんだけど、青は藍より出て、なんて言葉があるくらいだから元は藍なんだよね?


あれ、知識が間違ってる気がするけどまあいいや。



「…なんだ、これは。」

「今日は想いを寄せる人や日頃お世話になっている人に甘味を送る日なのです!」



やっぱり宵藍には、ホワイトデーやバレンタインの説明してなかった。
言われてないなー、と思ったけどやっぱり昨日も特になにも言ってなかったよね。




でもさ。やっぱり最初に渡すなら宵藍かな、なんて。



「……。」

「あ、あれ…迷惑だった?」



無言で渡した包みを見る宵藍に慌てる。

甘味嫌いだったかな!?
大丈夫、そんなに甘くしてないし…!


わたわたとあっちを見たりこっちを見たり手を動かしていると「いや、」と小さく声が聞こえた。
恐る恐る宵藍を見上げれば、包みに向いていた視線は私に向いており、ばっちり目が合う。

綺麗な瞳に一瞬息が詰まりそうになる。



「…有り難く頂こう。」



瞳を優しく細めただけの笑み。
滅多に見せることのないそれに、思わず見惚れてしまう。


イケメンなのは分かっていたけど、やっぱり微笑むと綺麗だなあ…。



「咲夜?」

「あ、え、なん、何!?」



思いのほか長く見つめすぎてしまったのか、宵藍が不思議そうに顔を覗き込んできた。

急に目の前に現れた宵藍の顔に頬に熱が集まる。



「俺の顔に、なにか付いているか。」

「め、目や鼻が…。」

「……。」



あ、ため息。



「そ、れじゃあ、渡したからねっ!」



見惚れてたことがバレたくなくて、若干言葉に詰まりながらそう言えば、また深くなる眉間の皺。


な、ど、どうしたの。
私今変なこと言った!?
言ってないよね!?



「…拾い食いでもしたのか。」

「してないよっ!?」

「それにしては、今日はやけに大人しいな。」

「……宵藍の中で、私って一体…。」



冗談なのか本気なのか分かりかねる言葉。
9対1の割合できっと本気だろう。
あれ、これほぼ心の底からそう思ってるってことじゃないか。

いやに真剣な眼差しで見てくる宵藍に握り拳が。

宵藍の中での私という人物像について語ろうじゃないか。
返答次第ではちょっと一発やらせろ。



「いつもなら、下りたがらないだろう。」

「…言い返せない私って!」



私って!納得しちゃった私って!


またひとつため息を吐いてその場に胡坐をかいて座る宵藍。
いそいそと隣へ移動してみれば、一瞥されたあと引っ張られ何故か宵藍の腕の中へ。

ぎゅ、と後ろから抱きしめられる形になる。



「しょ、宵藍?」



胡坐をかいた脚の上に座らされている為、体重をかけないようにすればお腹がぷるぷる。
ぜ、贅肉さんが悲鳴を…!悲鳴を上げてらっしゃる…!


突然のことに宵藍を見上げれば、



「見ていたいんだろう、都を。」



またあの表情で笑うから、ああもう、反則だ。
ぎゅ、と衣を握れば優しく頭を撫でながら髪を梳いてくれる。

私も変なのかもしれないけど、宵藍も充分変だと思う。
私に触れてくる手の動きも、指も、全てが暖かくて優しい。



「見なくていいのか。」



私の目の前には宵藍しか写ってないけど、それでもいい気がする。
都も確かに見たかったけど、今この時間が続くだけで私はいいと思えるんだ。

宵藍もそう感じているんだろうか。

特に何も言わなかった。
ゆっくりと時が流れていく。
風が流れて私と宵藍の髪を小さくたなびかせる。



「…あはは、変な感じ。」

「お前が大人しいからな。」

「私のせい!?」



あはは、とまた笑う。

いいなあ、好きだなあ、こういう時間。
本当、ずっと続けばいいのに。


こてん。身体を宵藍に預ければ梳いている手が段々と下りてきて、顔の横で止まる。
そのまま頬の輪郭をなぞられる。

くすぐったいよ。

身を捩れば動くなとでもいうかのように抱きしめられた。
本当に、どうしちゃったの?
今日は変だよ。



「…特別な日なんだろう?」



言葉と同時に首元に降ってきた触れるだけの口付け。


…え。



「今日ぐらいは、な。」



低く呟かれた言葉。

ななな、なにが!?
なにが今日くらいなんですかっ!?


宵藍に包み込まれたままの全身が熱くなる。
離してほしいけど、離す気がさらさらないのは抱きしめられる力が強くなったことでわかった。



「〜っ今日だけ、だから!」



ほぼやけくそ状態で抱きしめ返せば、どこか嬉しそうな笑い声が上から聞こえた。



恥ずかしいし恥ずかしいし恥ずかしいけど今日だけだから!






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