Present for you a powderedgreenteachocolate.

Mild and so sweet.



緑青の場合



折角のバレンタインなのだから、皆に何かお返しがしたい。
そう思って作った甘味。
前日に1番によこせよコルァと言ってきた人物達の中でどうにかこうにか最初に渡す人を決めて、その人物を探しに部屋を出たまではいい。


ちゃんと目当ての人物、六合は見付けられたし。

どうした、と不思議そうに問うてきた六合に甘味と感謝の気持ちを伝えれば、ありがとう、と頭を撫でられた。くすぐったかった。


うん。ここまでもいい。


でもさ、今までのこの流れで、



「なぜ甘味屋巡りに繰り出してるの…?」



隣では団子と真剣に向き合う六合。


なぜか人間の姿で。


服装が変わっただけなのに溢れ出すこの色気はなに…!
イケメンか、イケメン補正か…!
団子屋の娘さんが若干頬を染めている。むか。


…むか?なんか私の心臓が子供の独占欲発揮したぞ今。
私は今何歳だ。よく考えようマイブレイン。
少なくとも子供の独占欲発揮するほど幼くはないだろう。



そんなことよりもう一度訊ねたい。

なぜ甘味屋巡り?



「…?」

「なんで逆に不思議そうな瞳で見られてるの?」



わからない、わからないから六合!
説明!説明プリーズ!
なにも説明無しで外に連れていかれた私に説明を頂戴!


そう訴えてみても六合の華麗なスルースキルが最大限発揮され説明を頂くことは出来なかった。
ずるずるとあっちの甘味屋こっちの甘味屋と連れ回される。

歩き疲れた時はきちんと休憩をとってくれるのであまり疲れは溜まっていないが、疑問は着実に蓄積されていっている。


昼を過ぎ、そろそろ日も傾きそうな頃合いになった時、六合が片手に買った甘味を持ちながら、



「…帰ろう、肌寒くなってきた。」



そろそろ我が道貫き通すのやめて下さい六合さん!


空いている方の手を差し出され、反射的に握ってしまえば自然に絡められる指と指。

こ、ここ、これは所謂恋人繋ぎというやつでは…!?


見上げた顔はいつもと変わらない表情で、慌てた自分が恥ずかしい。
そのせいで今の状況が余計恥ずかしい。
どうすればいいの…!



決して遠くはないはずの安部邸までの道のりが、もの凄い距離に感じられた。
その間も言わずもがなずっと恋人繋ぎのままなのだから、私は爆死寸前だ。

顔から火が出る、なんて比喩表現を体現出来る気がする。それくらい恥ずかしかった。



「待っていろ。」



自室に着けば漸く離される手と手に安心したような少し残念なような。
見上げた顔はやっぱりいつもと変わらないので、なんだか置いてけぼりをくらったような淋しさが胸中に広がる。


買った甘味を私の部屋に置いて出て行った六合に首を傾げながら大人しく待つ。


今日の六合は予想外というかいつもと違う行動ばかりだ。



「…人間姿とか。」



あれは反則だ。


話しかけるときも人目を気にしなくて良かったし、髪を結ってたし、い、色気があったし…。
フラッシュバックする隣に並んでこちらを見ている六合の姿。


あぁあぁお、おお、落ち着け私!
下がれ上がってきた熱!



「…咲夜?」

「りり、六合!?」



今正に考えていた人物に声をかけられ、思わず声が裏返ってしまった。
振り返れば、手にお茶を持った六合がいまだ人間の姿でいるので、先程考えていた光景が思い出され、更に熱が上がる。


六合が怪訝そうな瞳で見てきてるよどうしよう!



「ご、ごきげんよう!」



だから落ち着けって私!



「なにかあったか?」

「いや、なんにも!?ど、どうして甘味を買ってきたのかなあと考えてたんだぁあははは!」



そうか、と若干疑わしげな声音で返ってきた言葉に影で胸を撫で下ろす。

もう何も考えるな自分。無になるのよ自分。雑念よ飛んでけー!



「以前、咲夜に教わった。」



私?


鼓動を常軌を逸した速さで打ち続けている心臓をなんとか宥めながら、お茶を置きながら座する六合を見遣れば、綺麗な鳶色の髪が揺れた。

なにか、教えたっけ?



「ばれんたいん、」

「うん?」

「甘味を貰った者は、甘味を送り返すのだと。」

「…ああ!」



ホワイトデーのことね!

でも、それは一月後の三月十四日にやることであって、バレンタイン当日には返さない、よ?
でも六合達には大分省いて説明した気がする。


じゃあ、じゃあもしかして。
もしかして、お返しを買うために甘味屋巡りに行ったの?
わざわざ人の姿までとって、あんなに真剣に選んでくれたの?

その通りだ、とでも言うように、六合が小さく微笑んだ。



「りく、ご…。」



驚きと嬉しさが一気に襲ってきて上手く喋れない。
口が言葉を紡ごうとするけれど、ぱくぱくと餌を求める金魚みたいに開閉を繰り返すだけだ。


抑えていたはずの鼓動がまた暴れだす。



「感謝と、」



いつの間にか目の前まで来ていた六合が、私を見据えている瞳は甘く優しい。


ああ、どんな甘味より、今の貴方の瞳の方が、甘く、甘すぎて酔ってしまいそう。



「……親愛を込めよう。」



言い終わるよりも速く、六合の瞳が近付く。
目を閉じることすら出来ないまま、私はどこか遠くの方でちゅ、なんて音を聞いた。


甘い甘い、蕩けちゃいそうなくらい甘い口づけ。



どんなに甘い甘味よりも、どんなに高級よりも、この世で一番好きな甘味よりも、比べられないくらい甘くて、癖になりそう。



「…甘い。」



本当にね。


私の言葉は、次はきちんと閉じた瞼と一緒に溶けていった。




Color:VERDIGRIS




(まろやかな抹茶チョコレート)
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