身動きがとれないほど溢れ返る人。

確かにここまでくると「人がごみのようだ!」なんて言っていた奴の気持ちがわかるかもしれない。
目が目がぁぁぁ!とかにはなりたくないから絶対口には出さないけどね!

だが、軽く現実逃避をしてみてもわたしのおかれている状況はなにひとつとして変わることはない。
動きにくいことこの上ない浴衣を着ていたことを今日ほど呪ったことはないだろう。

人込みから避難するために足を運んだ神社で、小さくため息を吐く。
もとはといえば、待ってて!と満面の笑みで言い残して去って行った昌浩が悪い。


移動しちゃったから昌浩探してるだろうなー。
式でも飛ばして連絡しようか。

ああ、なんでないんだ携帯。



「聞いてんのか、姉ちゃん。」


聞いてるよ、お前達が今まさに私が現実逃避していた原因だからな!

私の目の前には薄汚い服を身に纏った、人相最悪の男が3人程にやにやと胸糞悪くなるような笑みを浮かべて立っている。
人を見た目で判断しちゃいけません!と言うけれど、こいつら絶対見た目通り柄悪い。誓ってもいい。
現に私は今正に絡まれているんだからさ!



「姉ちゃん、俺達さあすごい困ってるわけよ。」

「はあ。」



それを私に言ってどうしろと。



「折角の祭りだってのに何もできやしねぇ。」

「それは、お気の毒様。」

「だからよぉ、」



ああ、嫌な予感がする。
びしばしする。



「身ぐるみ全部よこせ。」



こいつらなんて王道の台詞言っちゃってるんだ。
完璧、悪党の台詞じゃないか。
今なおにやにやと下品な笑みを顔に貼付けながらもこちらへじりじりと近付いて来る男達に全力で回し蹴りを喰らわせたいのに私は浴衣姿。
ちくしょう、足があがらない。
成す術もなく、じりじりと後退するが、それも伸びてきた男Aの腕で意味の無いものとなってしまう。
ああ、捕まる。
最後の抵抗として持っていた巾着袋を叩き付けてやろうと思う。
ぐわっと思い切り腕を振りかぶる。くらえ。

ぱしっ

しかし、振り下ろそうとした腕は、後ろから何者かによって掴まれてしまった。新手か!?後ろからとか卑怯だ!
内心で毒付きながらも、後ろにいるこいつらの仲間を目一杯睨む。



「…あれ?」

「なにをやっているんだ。」



後ろにいたのは男達の仲間などではなく、長身美形の何故か人間バージョンの我らが神将達でした。
しかも、いるのは紅蓮と太裳。
やばい、魔王様来たよ。
ぐっと眉根に皺を寄せる紅蓮からは不機嫌オーラが垂れ流しにされており、太裳は微笑みを浮かべているのに空気が冷たい。
え、いや、この状況私のせいじゃないからね?



「探したんですよ?」

「昌浩が待ってろ、と言ったはずだが。」

「ご、ごめんなさい。」



怖い。怖いよ!なにこの2人!?
未だに掴まれたままの腕をぐい、と引っ張られ危うくこけそうになった。



「行くぞ。」

「え!?あ、はいごめんなさい行きます。」



驚いて疑問の声あげたら太裳さんからブリザード攻撃くらった。
チキンで悪かったな!



「ちょ、ちょっと待てよ!」



神社から出ようかというところで、男達の制止の声がかかった。
でも紅蓮達は華麗にスルー。
もう一度かかったが、紅蓮がこれでもかというほど睨んだおかげでもう何も言ってこなかった。



「帰ったら覚えとけ。」

「覚悟しといてくださいね。」



ああ、どうか朝までかかりませんように。
でもきっと、私の横でなぜか楽しそうに笑っているどSのせいでかかるんだろうな。




少女と祭り




(姉様!心配したんだよ!?)
(ごめん、昌浩)
(もう絶対いなくならないでね!?)
(うん。肝に銘じとく)
((次またやったら、どれだけ怒られるかわかったもんじゃない))
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