「ハル、風邪を引く。中へ。」

「シオンさん…。相変わらず過保護ですねー、大丈夫ですって。」

「そう言って以前引いたのは誰だ。」

「わたしです!」



はあ、と横に立っているイケメンから溜息が吐かれたのがわかる。
仕方ないじゃないですか。空を見ていたいんだから。



「テンマ…アローン…。」



一緒に育ってきた幼馴染である心優しい少年と、単細胞の少年を思い出し、小さくその名を呟く。

懐かしいな、会いたいな。元気かな。喧嘩、してないかな。アローンは絵、上手くなったかな。
ああ、会いたい、な。



「うわ!?」

「………。」

「し、シオンさん?」



ぐい、と視界を何かに覆われそのまま後ろへと引っ張られる。不意打ちの力でバランスが崩れ、後ろへと傾ぐ。
倒れなかったのは、わたしを引っぱった張本人であるシオンさんが支えてくれているからだろう。
もう一度呼びかけてみるが答えはない。



「シオンさん?どうしたんですか?」

「…中へ、ハル。」



な、んで…。

そう聞きたいのをぐっと堪える。
聞いたって答えてくれるわけがない。
しかも、なにがなんでなのかさっぱりわからない。
だからわたしは、大人しく中へと入るのだ。
見なくてもシオンさんがどんな顔をしているのかわかる。
困ったような、切なそうな、寂しそうな悲しそうな顔で微笑んでいるのだ。長年の経験って凄い。

視界を覆っていたシオンさんの手が退かされ、月の光が入ってくる。
淡い、綺麗な光だ。テンマ達も、見ているのだろうか。



「……っ…寝ろ、」

「はい、そうします。」



この月の光に包まれて寝たら、テンマ達に会える気がするから。

口には出さなかったけれど、気付いたのだろう。
シオンさんが、またあの表情で微笑んだ。


ああ、なんでそんな顔をするんだろう。長年の経験も、役に立たない。わからない。



「……おやすみ。」

「おやすみなさい。」



ぱたん、と扉が閉じる音が、静かな部屋に空しく響いた。





蒼い光に包まれて


月の光は、地上のどこにも平等に降り注いでいるのだろうか。



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