助けてくれた彼はテンマと言うらしく、彼が暮らしている孤児院まで連れていってくれた。
状況をかい摘まんで説明すれば、快く院で暮らすことを了承してくれた。
裕福、とはまではいかない、むしろ貧しい暮らしだけど、テンマや院で仲良くなったアローンにサーシャ。子供達と一緒に暮らすのはとても満ち足りた生活だった。
すぐに手が出るテンマ。争い事が嫌いなアローン。優しいサーシャ。4人で川辺に行ったり、野原に行ったり。
そんな生活が当たり前になってきた頃。
「聖域…?」
「わ、たしも?」
「そうです。貴女はアテナ。我等を率いるべきお方。」
サーシャとわたしが引き取られることになった。
もちろん、テンマ達は猛反対したが、刻一刻とわたし達が聖域へと行ってしまう日にちは近付いていた。
そして遂に前日。わたし達は丘の上で各好きなことをしていた。
「ハル。」
「なにー?」
アローンが絵を描いているのを横から見ていれば、視線はスケッチブックに向けたままアローンに呼び掛けられる。
「ハル、僕、明日君に言いたいことがあるんだ。」
「今じゃ駄目なの?」
そう聞けば、少し困ったような表情が向けられる。
「明日まで待って?」
「う、うん?別にいいけど…。」
「テンマ、アローン兄さん、ハル!」
気になりつつも、サーシャの方を向けば、こっちへ来いと手招きされる。
「サーシャ?」
「どうしたんだ?」
「…花輪?」
サーシャから渡されたのは、花を編んで作られた小さな腕輪。
見れば、サーシャの腕にはすでに付けられている。
「…明日から、ばらばらになってしまうでしょう?」
わたしとサーシャは遠くに。テンマとアローンはここに。
当たり前のように会えなくなり、喋れなくなってしまう。だから、せめて繋がっている証として、何か残したいの。切なく微笑むサーシャを強く抱きしめる。
「会えるよ、必ずまた会えるよ。」
「今はまだ幼くて、思い通りにはならないけれど。」
「最後には必ず、また会える。」
「きっと腕輪が、僕ら4人を繋いでくれる」
きっと、きっと、
「…ハル?」
「サーシャ…。」
あれから、もう何年の年月が経ったのだろう。
アテナとなったサーシャ。アテナを支えるべく存在するわたし。
聖戦とか、よくわからないけれど、でも、確実に世界は、わたし達は変わりつつある。
ああ、そういえば、貰われる当日、アローンが何か言いかけていたけれど、結局聞くことは出来なかった。
「花輪、見てたの。」
わたし達と彼らを繋ぐ、小さな紐を。
そう言えば、あの時と同じ笑みを浮かべるから、わたしはそっとサーシャの手を握った。
流るる時の中で
色褪せない約束