わたしが生活を送っている部屋は、セージ様が暮らしている宮の一室だ。
つまり、近隣の町からもの凄く、それはもうありえないくらい遠い。
距離的にはそんなにないかもしれないが、部屋に戻るためには、目の前に立ち塞がるこの長い階段を最後まで上らなくてはならないのだ。
遠い。遠いよ。
「はあ…はあ…。」
肩で息をしながら歩いていたが、一旦立ち止まる。
下りるときは楽だが上るときが辛い。ちくしょう重力め。
なんでこんな無駄に長いんだ。
「ハル?」
「し、シジフォスさん…。」
綺麗な短い茶色い髪を揺らしながら下りてきたのは、いつもは各地を巡っていて滅多に聖域に居ないシジフォスさん。
黄金聖衣が日の光りに反射して眩しいです、とても。
「…また体力が切れたのか。」
「うっ……はい…。」
呆れが混じった苦笑を浮かべる彼の反応は仕方ないと思う。
移動手段の大半が徒歩のこの時代、現代でも体力があった方ではないわたしは、聖域の中を移動するだけでも相当疲れてしまう。
そんなわたしがこの階段を普通に上りきるなんて事出来る訳もなく。毎日のように途中でへばっているのだ。
「何回休んだんだい?」
「こ、これが初めて、です…。」
そう答えれば、微笑みながら頭を撫でられた。
…え、なんで?
「体力、ついてきたんじゃないか。」
「そうでしょうか?」
大きく呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いたところでシジフォスさんを見上げれば、彼は目を細めながら頷いた。
ついてたらいいなあ。皆みたいに、は流石に無理だから、せめて階段を余裕で上り切れるくらいまでついて欲しい。
「最初なんて、白羊宮に行くのもままならなかったくらいじゃないか。」
「あー!?い、言わないで下さい!」
うおぉおぉそれわたしの黒歴史ですうぅうぅ!
黄金聖衣を叩くなんてこと出来ないので、両手を大きく振りながら必死に飛び跳ねる。工事現場の人がよくやってるよね。こっから先進めませんよー。
楽しげに笑っているシジフォスさんは確実に確信犯だと思う。
「悪かった、怒らないでくれ。」
「心が篭ってませんよ、シジフォスさん!」
そうか?なんて悪びれた様子もなく言ってのける彼にそっぽを向けば、また同じように悪かった、と謝る。だから心篭ってませんってば。
「謝るだけじゃ許して貰えそうにないな。」
「笑いを含んだ謝罪の言葉で誠意を示したつもりだったんですか…!」
「精一杯の誠意なんだが。」
「とても嘘くさいです。」
困ったな、と困った様子もなく言う彼にため息。
「なら、疲れているであろうハルにお茶を淹れよう。」
「…謝罪の意味で?」
「頑張っている君へのご褒美として、だ。」
許してくれるかな?
手を差し出しながら、優しく綺麗に微笑む彼にくらり。
お兄ちゃん的存在
よく無自覚に誑し発言をしてきます
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
シジフォスさんお兄ちゃんに欲しい。