「今日も早起きだね」

そう声をかけてきたのは、並盛中での圧倒的強者である風紀委員長の雲雀。

昔はそんな彼に声をかけられることが恐ろしくてたまらなかったのだけれど、今ではもうそんな事もない。彼は、校則違反を破ったり人とさえ群れていなければ咬み殺さないのだから。

「おはようございます、雲雀さん。……今日は全校集会があるから、早めに来て水やりをしているんです」

ジョウロに水を満タンにして入れて持っている私は、そのまま花壇の花に適量の水をかける。
今日は天気が良いので、水がキラキラと太陽の光を浴びてとても綺麗だ。

「そう。良い心がけだね」

そう言って、雲雀さんはスッと花壇に目を向ける。現在、並中の花壇にはラベンダーが綺麗に咲いている。ラベンダーはとても育てるのが難しい花なのだけれど、無事に綺麗に咲いてくれて良かったと心底思った。でなければ、今この場でこんな表情を見せる雲雀さんを間近で見れていないから。

「よく育てたね。コレ、難しいんだろう?」

「はい。でも、どうしても育てたかったんです。……綺麗に開花したら、見てほしい人が居たので」

心臓をバクバクさせながら、私はただ真っ直ぐ、ラベンダーを見ながらそう言った。
他ならぬ、雲雀さんのために植えたからだ。

雲雀さんに、見てほしいから植えたこのラベンダー。
彼がラベンダーの花言葉を知っているのか知らないのかは分からない。

雲雀さんはどうするのかは分からないが、私はもう来年にはこの場にはいない。卒業してしまう前に、今年はどうしてもこのラベンダーを育て、開花させた所を雲雀さんに見せたかったのだ。
気がついてくれるかは分からないし、そもそも気づいてくれたとしても結ばれるかも分からないので、ただの自己満足でしかなかった。
そう、気付かれても気付かれなくても、きっと雲雀さんは私と同じ気持ちではないだろうと思っていたのだ。

「妬ましいね」

「え」

いま、この人はなんて言った?

バッと彼を見る。
とても、不快そうな顔をしていた。
まるで、私が言っていたラベンダーを見せたい「人」に嫉妬しているかのような、そんな表情をしていたのだ。

雲雀さんは綺麗な顔を歪ませながら、それでも優しくそっとラベンダーに触れながら再度私へと言葉を吐き出す。

「君にこのラベンダーを送られた相手を、出来ることなら咬み殺してやりたいくらいだ」

「そ……れは、あの……無理なんじゃないでしょうか」

「なに?僕より強い奴だって言いたいの」

違うそうじゃない、と声に出そうとして私は顔をカッと赤らめてぐっと下唇を噛んだ。

ちょっと待ってくれ。
これってもしかして、もしかしてだったりするのかしら。いや、でもこれで違ったらちょっといやかなり恥ずかしいけれど……と思いながら、頬を真っ赤にさせながら私は雲雀さんに噛みすぎて感覚がなくなった唇をゆっくりと開けて、ラベンダーに触れている彼の手を取った。


それ、貴方自身ですよ雲雀さん



園芸委員会に所属してる子と、三年間共にした雲雀さんの話。
ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」「期待」「沈黙」「清潔」らしいですよ。















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