That light
 

目を覚ますと既に日の光が高く登り切っていた。

どうやら昨日までの5日間、街に寄る事なく(寄ったとしても物資の買い出し程度)10個程の討伐依頼を引き受け、その間ずーっと野宿でキャンプ三昧の日々を送っていたから、久し振りのホテルでの宿泊で寝過ぎてしまった様だ。

カーテンから差し込む光に目を細める。
一度携帯で正確な時間を確認して、サイドテーブルの上に置くとまたゴロリッと寝返りを打った。
昨日まであんなにハードな日々を送っていたのだ。
休みを貰った今日くらいは好きに寝かせて欲しい。
ああ、そうだ。目が覚めたらもう一度熱いシャワーを浴びよう。まだ自分が汗臭い気がしてならない。

目蓋を閉じると、自然とここ数日の出来事が思い出された。

楽しいと言えば楽しい冒険だったのだが、如何せんそれだけでは済まされないのが現状だった。
引き受けた依頼が全て討伐依頼なだけに昼夜問わず危険がいっぱいなモンスター討伐を行わなければならない事、移動時のいきなりの雨や依頼途中の戦闘の所為での泥だらけや怪我は当たり前な事、皆とはやはりスタミナの差がある為私一人が直ぐにバテる事等。
そして夜は夜で、寝る場所がテントの中なので寝床が狭い事、寝袋で寝なきゃいけない事、男四人と常に一緒に居ないといけないから正直気が休まる気がしない事、なんならテントの中までも一緒だと言う事、文句を上げた出したらキリが無い。
まあ、皆一様に気は遣ってくれていた様だし、私も極力気にしない様にはしていたのだが……

何と言っても、一番の問題はお風呂に入れない事だった。
本当にコレだけが一番キツかった。この時ばかりはこんな無謀な計画をしたノクトを締め上げたくなった。
5日間もまともにお風呂に入れないのだ。最早女として終わってるとさえ思う。コレが2、3日程度であったならまだ我慢しただろう。他の四人も同じ境遇なのだから、だが、現状は5日間なのだ。
我慢出来る訳が無い。
お風呂に入りたい。汗臭い。汚れてる。髪の毛がベタベタする。自分が臭い。他の皆に臭いと思われてたら嫌だ。お風呂に入りたい。汚い。臭い。お風呂に入りたい。
正直ずっとそんな事ばかり考えていた。

途中途中で水浴びやタオルで身体を拭いたりもさせて貰えたが、それでもだ。
気になって仕方がなかった。

・・・・。

二度寝しよう。そう思って寝返りを打ったのだが、考え事ばかりでなかなか寝付けない。
仕方が無いから予定を変更して、先にシャワーを浴びる事にした。

服とタオルを用意して、いざシャワールームへ
と、思ったら、サイドテーブルの上に置いた携帯が鳴り出した。この世界で電話を掛けてくる人間なんて限られている。
携帯の液晶を眺め、少し考えてから通話ボタンを押す。


「……もしもし?」


電話に出たのは、不器用な王子様だった。


「あー、もしもし名前?その、大丈夫、か…?」


彼の如何にも顔色を伺ってますと言う態度に笑いそうになりながら、珍しく下手に出ている彼に少し悪戯をしてやりたくなった。


「……何が?」

「何がって、いや、その、あー今回の、無理させたかなと思って、さ…」


画面の向こう側で口をモゴモゴさせ、どう言って私の機嫌を取ろうとかと焦っているのが簡単に想像出来て、笑いが込み上げてくる。
こう言う所はまだ年相応で、未熟で、可愛気がある奴だなって思う。


「そうね、誰かさんが大量のクエストを勝手に引き受けて、5日間もまともにお風呂に入れず、キャンプ生活を強いられた一般の女の子の気持ち分かる?王子様?」

「…っ、それに関しては、マジで悪かった…っ」

「で?ようやく出来た休日も、俺様の世話に付き合えって話ですか??」

「バッ…ッんな訳無いだろうっ!俺はな、なかなか起きてこねぇお前を心配して…っ!!」

「ーーーっふふっ」


此処で限界だった。今まで我慢していた笑いが一気に吹き出し、普段はなかなか聞けない彼の素直な言葉に私の中の悪戯心が負けてしまった。
携帯の向こう側でノクトが「は?…え??」と訳の分からないと言ったなんとも間抜けな声を出している。


「ふふっごめんなさい、そんな言う程怒ってないから大丈夫よ」

「は?ーーーあ!お前っ!!」


何故私が笑っているのか、そして自分がからかわれた事に気が付いた王子様は、「おまっ、マジでふざけんなよ!」と画面の向こうで大声で怒っている。
その怒りが照れ隠しから来るものだと私は知っているから、笑って「ごめんごめん」と繰り返す。

そして、ノクトの更に向こう側、後ろの方でグラディオとプロンプト、イグニスの笑い声と話し声も聞こえて来た事から、多分ノクトは彼等に言われて私に電話を掛けて来たなと何と無く思った。


「ーーーそれで、何か御用ですか?王子様?」

「っるせ、今更おせーよ。」


どうやら私は王子様の機嫌を損ねてしまった様だ。
やれやれ、どうしたもんか…と考えていると、「…イグニスが」とポツリと何か呟いた。


「ん?」

「イグニスが飯と買い出し行くぞって!ったく、部屋の前で待っててやるから早く来い!!…そしたら許してやる。」

「…っはいはい、直ぐ着替えて行きますよ、ノクティス様」


本当はシャワーを浴びたかったけど、我らが王子様の命令と有ればそちらを優先しなくてはいけない。
それに、


「丁度お腹も空いていたので、嬉しいお誘いと寛大なお心遣い痛み入ります。」

「……お前、ハァ、良いからサッサと来いよ!」


そう言うと呆気なくプツリッと通話が切られた。
ノクトが電話を切る直前まで、向こう側から4人で何か騒いでいる声が聞こえて来て、私は改めて良い仲間達と出会う事が出来たんだなと実感した。
私を心配し、気遣い、声を掛けてくれる仲間が居る事を嬉しく思いながら、用意した服とタオルを持ち直し、寝起きの顔を洗うべく洗面所へと向かった。

顔を洗って着替えて支度して、さあ、あの王子様は最後までちゃんと待っていてくれるだろうか?途中で待ち切れずに部屋の中へと入って来てしまわないだろうか?
まあ、そうなったらそうなったで新たに彼をからかってやる素材が出来たな思う私であった。


空の中心で輝き続ける太陽が、

今日も世界を日の光で照らし続けて居る。


嗚呼、どうか太陽よ。
彼がその背に背負った使命を果たすその日まで、
彼の道を照らし続けておくれ。

そして、どうか叶うのならば、

彼が使命を果たすその日まで、
私は、いいえ、
“私達”は彼の側で見守り、寄り添う事を赦して下さい。


どうか、彼等の道行きに“光あれ”


 Back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -