過ち
承太郎夢、孫夢主設定。
承太郎は結婚してます※注意※



貴女の人生の誤ちは?

と聞かれたら私は間違い無く、こう答えるだろう。

『私の人生の誤ちはーーーー』



*誤ち*



お昼過ぎの何気無い時間、ちょっと小腹が空いたねと私が言い出しのがきっかけで、カフェ・ドゥ・マゴの店内へと足を踏み入れた。
生憎と店内は繁盛している様子で丁度開いていた席が一番奥の角席しかなかった。こんな天気の良い日は、出来れば外のテラス席が良かったのだが、同じ考えの人は他にも居る様で店内共に満席だったのである。まあ、こういう時は座れただけラッキーと考えるのがベストだろう。

サンドイッチ2つとコーヒーと紅茶

大体いつも頼むセットを注文し、2人がサンドイッチを食べ終え、飲み物を飲みながら談笑しようとした時、お店の入り口で見知った顔を見かけた。


「あら?康一くんじゃない、どうしたの?」

「あ、名前さん!えーっと、実は仗助くんと億安くんと待ち合わせしてまして…」

「そうなの、あ、2人来るまで一緒に座ってる?」


ほぼ満席の店内でどうやらキョロキョロと席を探していた様子だったので、席を指差しながら聞くと「じ、じゃあお言葉に甘えて…」と彼が控えめに頷いた。「いいよいいよ気にしないで!承太郎、奥詰めて」と承太郎を奥の席へと押しやり私は彼の隣へと腰掛けた。そして私の座っていた、私達の前の席に康一くんが座ったのだった。

そろそろ期末の時期だとか、仗助くんと億泰くんの成績が心配だとか、2人共どうにか赤点は取らないで欲しいとか、なんだかんだと雑談をしながら、何をどう言った経緯でその話になったのかは忘れたが、不意に康一くんから言われた質問だった。


「そう言えば僕、ずっと気になってたんですけど、名前さんと承太郎さんの関係って何なんですか?」

「……え?」


目の前の康一くんに言われた唐突な質問に私はピクリッと反応してしまった。
そして私の隣でコーヒーを飲もうとしていた彼も一瞬、動きを止めた。


「あ、いや、なんて言うか、2人が幼馴染みとは聞いてはいたんですけど、時たまそう言う雰囲気には見えない時があって…」


言いずらそうに苦笑いをしながら言われた少年の言葉に、不覚にも動揺してしまったのは私の中に少なからず思う所が有った為だろう。
「そう、ねぇ…」と口元に笑みを作りながら、必死に次の言葉を探す。両手で包んだカップの中で紅茶がユラユラ揺れていた。



ーーー彼、空条 承太郎と私、苗字 名前は幼馴染みである。
しかし、幼馴染み以上に私達の間には強い結び付きが生じていた。

ジョースター家とツェペリ家の末裔同士

星を司る者と共に寄り添う者

其れ等の運命、と呼んだら良いのか、はたまた因縁めいた関係性の中で、私達はお互いに何か信頼の様なモノを築き上げて来た。
10年前のあの日々から、否もっと以前の、産まれる前から私達は強く結ばれていたのだ。ジョースターとツェペリの子孫として、強く、強く…

それだけなら良かったのだ。

もっと言えば私が“男”だったなら、私達の関係はもっと単純なものだったのだろう。
だが、私が“女”で承太郎が“男”として産まれてしまった以上、我々は自然とひとつの可能性に行き着いてしまった。

それがーーーー恋だ。

あの頃私は彼の事が好きだった。確かに恋をしていた。それだけの単純な世界だった。結果的には言葉にする勇気が無くて告げる事の出来なかった恋、今となっては昔の話…、で済めば良いのだが、何故か残念な事にそういう訳にはいっていない。

今の承太郎は既婚者だ。それに子供だって居る。なのに私は、女々しい事に未だにあの時の恋愛感情をズルズルと引き摺っている始末だ。

『彼の事が未だに好きなのか?』

と、聞かれたら正直なところ何と言っていいのか返答に困ってしまうのが、優柔不断な私の悪い所なのだが……そうね、強いて言うなら、

『最早この想いは“好き”等と言った簡単な言葉で片付けられる程、容易く無くなってしまった』

と言うのが正しい答えだろうか…?
確かに私は彼が“好き”、なのだろう。
だがその“好き”に至るには様々な問題や想い、責任や使命、運命等をたくさん、本当にたくさん抱え込み過ぎてしまったのだ。

昔程ーーーーあの頃の、高校生の時程、私は簡単に己の好意を口に出来なくなってしまった。
単純だと思っていた世界は、いつの間にか複雑になってしまっていたのだった。



カチャリッと何かが軽く合わさり合う音で我に帰る。隣を見るとコーヒーを飲み終えた承太郎がカップをソーサーの上に置いていた。

「康一くん、君の認識の通り、我々はただの幼馴染みだよ。」

その言葉は余りにも残酷だった。
いつものあの淡々とした口調で、何事も無く言うのだ。そりゃそうだ。彼にとって私は何でもない“ただの幼馴染み”なのだから……だが、分かっていたとしても彼の口からその言葉を聞きたく無かったと思ってしまった。
爪先から血の気が引いて、口の中が渇いていくのを感じる。口の渇きを潤そうと左手でカップを持とうとした所で、次の彼の声が耳に届いた。


「ーーーただひとつ、間違っているのだとしたら、私達の関係はその範囲で済まされないという点だ。」

「ーーーっ!!!??」

「それって…??」


その言葉に驚いて指を掛けたカップを滑らせ、ソーサーの上でカチャリッと音を立ててしまった。
康一くんは何を言っているのか分からないと言った表情で私達を見比べる。私は何と無く次に彼が言うだろう言葉を想像して、なんとも言えない表情になってしまった。


「彼女は、名前は、私にとって掛け替えの無い存在だよ。プライベートでも、仕事に対してもね。
時に幼馴染みで有り、時に同僚で有り、時に妹で有り、そして掛け替えの無い存在だ。」


ほらね、やっぱり。私の思った通り。
承太郎は私の事をそうとしか思ってないのだ。
だから今だってこうしてーーー

康一くんは「な、なーんだそうだったんですか!すみません!なんか変な事聞いて!!あ、仗助くんと億泰くんそろそろ来るかな?!それじゃあまた!!」とだけ言うとそそくさと出て行ってしまった。


「行っちゃったね…」


ポツリと私が言うと承太郎は「そうだな」と一言だけ返してくれた。


「ねえ、私は本当にソレだけの存在なの?」

「……ああ」

「あっそ、だったらそろそろ離してくれる?紅茶が飲みづらいの。」

「………」

「……嘘付き…」


私は仕方が無く左手で紅茶を飲む事にした。
慣れない聞き手じゃ無い方の手を使う所為で上手く飲む事が出来ない。まあ、今はそれでも良いと思えてしまう程満たされてしまっている自分が居る。

机の下で絡みとられた右手が、貴方の体温を教えてくれる。

ごめんね康一くん、承太郎は嘘付きなの。
私達“たったソレだけの関係”じゃないのよ。

見えない所で誰にも言えない関係をしている。

なんて言ったら幻滅されるかしら?


それでも私達はこの関係を続けていくだろう。
誰にバレてしまおうと、誰に何と言われようと、私達が惹かれ合ってしまったのはきっと運命なのだ。


私の人生の過ち、ソレはーーー


彼に、空条 承太郎に恋をしてしまった事だろう。



問題です。
彼等はどの辺りから手を繋いでいたでしょうか?

※不快に思われた方が居らしたら申し訳御座いません。


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