恋だと自覚する
仗助、孫夢主。仗助視点。



指先が、軽く触れ合った。
たったそれだけ。

それだけなのに、酷く動揺して顔が熱くなった。

嗚呼、この人が好きなのだと、自覚する。



*恋だと自覚する*



「ーーーーー」


カシャンッと、名前さんに差し出されたシャーペンを俺が取り落とし、憎らしい音を立てて床に転がった。
直ぐにハッとし、「す、すみません!」と謝りながら机の下へと屈み、名前さんの顔が見えなくなった所で無意識の内に詰めていた息を吐き出した。

たった少し指先が触れ合っただけなのに、ドキドキと心拍数が急激に上昇した。己の動揺が表面に現れしまう前に顔が隠せたのは幸いだったかもしれない。まるで小学生の様に浮き足立った心と、どうしてもニヤけ緩んでしまった頬をペチペチと叩いてどうにかこうにかいつもの表情へと戻す。
頬が少し赤いのは気温の所為だと誤魔化すつもりだ。

「あれ?シャーペンどこいったー??」なんてボヤきながら、直ぐ目の前に転がっていたシャーペンを握り締める。もーちこっと見つけ難い所に行ってくれてたらもう少し時間稼ぎ出来たかも知れないのに…

余りにも俺がゆっくりしていた為だろう「仗助くんシャーペンあった?」と名前さんが心配そうな表情で覗き込んで来た。


「あ、有りました有りました!大丈夫ッス!」


ニッと歯を見せる様に笑って、覗き込んだ名前さんに見える様に手に持っていたシャーペンを掲げて振る。
「そっか、なら良かった…」とホッとした様子で机の上へと戻って行った名前さんに心の中で小さな嘘を付いた事を謝罪した。


名前さんは面倒見が良く、そして優しい。
たまたま道端で承太郎さんとバッタリ出会い、承太郎さんとの話題作り半分、冗談半分で、数日前に取った赤点を見せながら「だから頭の良〜い承太郎さんと名前さんにテスト勉強手伝って欲しいッス〜」とほぼ冗談で言っていたのだが、直ぐにその日彼女から電話が掛かって来た。


「もしもし、東方で…」

『仗助!赤点取ったって本当なの!?』


開門一番、名前さんが俺の言葉を遮る様にそう言われた。そして『今さっき承太郎から聞いたんだけど…』と続けられて、2人の情報伝達早ぇなーなんて遠い目で思った。


「まあ、そうッスね…」


自分の撒いた種なので苦笑いしか出来ない。
『大丈夫なの?補習はもうした?』と聞かれて「あーまだッスね、確か来週だったかな?」と教師から言われた言葉を思い出しながら伝える。
すると、


『分かった!だったら今週の土曜、暇?』

「え、ど、どうしたんすかいきなり…」


ま、まさか名前さんからデートのお誘い?!なんて淡い期待を抱きながら喜ぶ俺を他所に名前さんは、


『仗助くんの言葉通り、勉強を見てあげようと思って!!』


と、力強くそして慈悲深く言って下さった。
いやこの流れでデートお誘いだなんて思う俺の方が可笑しいんでしょうけど、俺だって青春真っ只中の青い高校生男子ですし?憧れの、それも年上の女性からそれっぽい事言われて勘違いしないのも無理無い訳でして…


「あ、ああ、ありがとう御座います。」


落胆が言葉に滲まない様に懸命に取り繕う。
そしてすかさず「っでも土曜日ッスよね、どーだったかな〜」と予定を思い出す振りをして言葉を濁した。名前さんには悪いけど、承太郎さんも一緒に、しかも勉強をだなんて、正直な所かなり嫌だし、面倒だと思ってしまった。
だが、それでも名前さんと一緒に居られるのは俺に取っては嬉しい事でして…でも承太郎さんも一緒で、しかも勉強で……
うーんうーんと俺が煮え切らず言葉を濁し続けていたら名前さんが思い出したかの様に、


『あ、そうそう。仗助くんごめんね。承太郎なんだけど、彼今月中に纏めなきゃいけない大学の研究レポートがあるから勉強見てあげられないの。それで私一人しか居ないけど、大丈夫?』


と、それ以上に嬉しい事を言って下さって、単純で純情な俺は二つ返事で名前さんの言葉に大声で頷いたのだった。
そして嬉しい爆弾をもう一つ落として下さった。


「じゃあ、土曜日、私の部屋で良い?」

「は、はい!喜んで!!!」


名前さんの部屋と言う事は、承太郎さんの宿泊する杜王グランドホテルの隣の部屋と言う事になる。
隣の部屋に承太郎さんは居るものの、部屋番はちゃんと分けられている。つまり俺は正真正銘名前さんの宿泊する部屋で2人きりと言う事だ。

その所為で前日の金曜の夜は全然眠れなかった。
興奮と緊張と期待を無い混ぜにしながら、次々に良からぬ事を妄想して、何度も何度も寝返りを打ったのを覚えている。


お陰でこの有様だ。情け無いとか最高にカッコ悪いとか、グレートじゃねぇとか、己へと悪態は尽きない。
正直めちゃくちゃヘコむ。寝不足の所為も有るのだろうが、頭が上手く回らず、名前さんの親切やひとつひとつの言動に対して逐一良からぬ事を考えてしまう自分に、誠意の欠片も無いと思う。

俺だって承太郎さんみたいに格好良くグレートに名前さんと話が出来たら…と思わずにはいられない。が、元々この2人は幼馴染みで、これまで数え切れない程の死線を共に潜り抜けて来た仲だけあって、蚊帳の外の俺から見ても互いが互いに目に見えて強い結び付きを感じる。
無性の信頼とか、絆とか、そーゆーのだ。
そんな仲に出逢って数週間の俺が、何十年も積み重ねて来た2人の間には、そう簡単には入り込めないし、その様にはなれない。

分かっては居るのだが、負に落ちない。

そして浅はかにも俺は名前さんの、
一番になりたいと願ってしまった。

今思えば一目惚れ…だったのかもしれない。
正直自信は無いが、初めて名前さんが承太郎さんと一緒にこの杜王町に来て、先輩達に絡まれてる俺に話し掛けて来た時から、自分の中にずっと何かを感じていた。
まさかそれが恋だったなんて今この瞬間まで気付きはしなかったのだが、、、ん?恋??
あれ、俺、確かに名前さんには特別な感情を抱いていたとは思っていたが、まさか、恋???

冷静に考えてたった今思い立った己の考えに、数え切れない程の疑問を抱きながら顔が熱くなってくるのを感じる。
あ、あれ〜?そんな、まさか…とは頭の隅の方で思いつつ、それ以外全ての思考が納得した。
俺が、名前さんを、好きだと。

そう思ったら今の状況に頭を抱えたくなった。
否、既に抱えていた。名前さんに教えられながら、問題が分からないフリをして、頭を抱え天を仰ぐ。

頭を抱えながら「グレートじゃあねぇ〜…こんなん全然グレートじゃあねぇぜ〜…」と繰り返し呟く俺のそれ等の行動を見ていた名前さんが「仗助くん大丈夫?もうそろそろ休憩にする?」と俺の顔を覗き込みながら心配そうに聞いて来た。


「……ゥ、スッ」


その顔が不覚にも可愛くて、俺は言葉を失ったが、辛うじて短く返事のみ返した。


「じゃあ、休憩にしよっか!」


そう言うと名前さんは机から立ち上がり、何処かへと消えていく。

好きだと気付いただけで簡単にキャパオーバーとなった自分を恥じる。
名前さんの行動ひとつひとつに過敏に反応して、慌てふためく自分が情け無い。

名前さんが居なくなった机に突っ伏しながら、悶々と今までの己の行動を反省して行く。今は俺の自慢のリーゼントが乱れても何も言わ無い。


「〜〜〜ダッセェ…」


ボソリと呟いた俺の言葉は名前さんには聞こえる事はなかった。



Q.何故この話を書いたんですか?
A.ピュアピュアな仗助くんが書きたかったからです。


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