コクショクカヤク

爆豪夢、同級生夢主。




「ねぇねぇ!今日の花火大会A組の皆で行こうよ!!」


誰かが唐突にクラスの中心でそう言い出したのが始まりだった。
その声に便乗するかの様に「はいはーい私もー!」「行く行く〜!」「お!良いな!」等の声が次から次へと上がり、花火大会に行くメンバーが着々と集まっていく。勿論有り難い事に私にも誘いのお声が掛かり、二つ返事で了承した。

だが、そんな楽しそうな雰囲気の中、やはりと言って良いのか何というか、約1名だけ断固として行くのを嫌がる人物がいた。


「誰が行くか、んな面倒くせぇ…」

「まあまあ、そう言うなって爆豪」


そう、その人物とは爆豪 勝己その人である。


「んなもん、行きてェ奴だけ行きゃあ良いだろうが、俺は呑気なテメェらと違うんだよ」

「こーゆーのは皆で行くから面白いんだろう!」


嫌だと言う爆豪くんにそれを窘める切島くんと上鳴くん、入学式の時から比べると大分マシにはなったとは思うが、爆豪くんの口は相変わらず悪い。


「な!な!爆豪一緒に行こうぜ!!」

「だあぁぁ!!うるせぇ!ウゼェ!纏わりつくな!!!」


BOM!BOM!

終いには彼の強力な個性を使って威嚇をするから尚、タチが悪い。他のみんなは『爆豪の奴またやってる』程度で笑って流してる。コレが出会って直ぐであれば少しは違った反応だったのだろうが、今となっては皆気にした様子も無い。
多分、皆薄々気付いているのであろう。彼の、爆豪 勝己その人の“本当の性質”について、あのUSJヴィラン襲撃事件や体育祭、ヒーロー科実技授業の時から…

彼はヒーローの素質があって(言葉遣いは別として)、ヒーローに必要な派手で強力な個性を持っていて、頭も良くて、運動も出来て、顔も良い(私の好みの話だが)。
そして何より周りを良く見ているのだ。
まあ、クラスメイトを「モブ共」と呼んでしまうのは少々アレだが、体育祭の時、周りを良く見て戦術を考え見事騎馬戦で物間くんのハチマキを奪って見せたのは驚いた。物すっごい罵声も聞こえていたが…
そして体育祭一年で1位を取ってしまったのだから、皆彼の事を認めざる終えなくなったであろう。表彰台では本当に1位なのか?と言うくらいガッチガチに拘束されていたが…

そんな彼の事を見てたら、一瞬目があった。


「・・・っ?!」


正直ボーッと(口には出していないとは言え)彼の事を考えながら眺めていたから驚いた。
だが、此処で不自然に視線を逸らす訳にもいかないので、ぎこちなく笑って手を振ってみる。


「・・・チッ!!」

「っ!?!!?」


ただ笑って手を振っただけなのに、舌打ちされて顔を逸らされた!!しかも盛大に!!!…まあ、彼にとってはそれすらも気に入らなかったのだろう。何か、うーん、なんて言うかこう彼なりに思う所があったのだろう。
こう言っては何だが、彼の幼馴染みの緑谷 出久くんを筆頭に友人の切島くん、他の男子生徒なんかは彼に舌打ちをされているのを良く目撃する。
その延長線なんだろうなーくらいで軽く考える方が良いだろう。真剣に考えたとして彼の気にいる態度を私が取れるとも限らないし……何処と無くこう考えてしまうのは寂しい気もするが、仕方の無い事なんだろうと、割り切る事にした。

結局、彼は切島くんに押し切られる形で花火大会への参加を決定した。改めて切島くんの凄さを痛感した様な気がする。


そして、放課後。
皆一度家へと帰り、支度してから18時頃駅で待ち合わせになった。
三奈ちゃんと透ちゃん辺りは浴衣を着ると張り切っていた気がするが、他の子も皆着ていくだろうか?私は残念ながら可愛い浴衣の待ち合わせが無いので、手軽な私服で行くつもりである。


「えーー!名前浴衣じゃ無いじゃーーん!!」


案の定待ち合わせ場所に行けば、三奈ちゃんと透ちゃんはバッチリ浴衣を着ていた。


「ごめんごめん、私浴衣持って無くって…」


笑って2人に手を合わせれば、「まあ今回は約束した訳じゃ無いからね!」「今度お祭り行く時は皆で浴衣着ようね!」と次の約束をした。


「人が多いから皆一塊りになって離れない様に!」


委員長、飯田くんが待ち合わせ場所に全員が集まった頃合いを見計らって声を上げた。こういう所は流石と言うか真面目だなと思う。良く周りを見て、声を出して人々を引っ張っていく、その真面目さが彼を彼たらしめる所以である。
所々から「外でも委員長するのかよ」とか「飯田くん真面目過ぎ」とか聞こえるが、皆一様に笑顔であった。


彼の指示に従いながら皆で駅から目的の場所へと向かう。と言ってもそんなに駅から離れていない目と鼻の先なので、迷う事はないのだが、いかんせんお祭りと言うだけあって人の数が多い。

道幅が狭い所ではギュウギュウと寿司詰め状態になり、人の波に押し流され、呑まれそうになる。
飯田くんの声が遠くに聞こえて、人混みを抜けた先の少し開けた所で一度集まると言っている様だが、正直私はそれどころでは無かった。

大勢の人波に流されながらギュウギュウと押し潰され、前を見ると私の目の前を歩いていた筈の緑谷くんの後ろ姿が遠くにあった。
このままでは皆を見失い、逸れてしまう、迷惑を掛けてしまうと一人でアワアワと焦っている時だった。


「おい!」

「ーーーえ?」


一瞬世界が止まったかの様な錯覚を覚えた。
置いてかれると焦っていた私は、意外にも近かった彼との距離に驚き、そして、たった一言だけ発してぶっきらぼうに突き出された彼の掌のその意味を図りかねて頭に疑問符を浮かべる。と、その一瞬で只でさえ吊り目の彼が更に目付きを悪くして、怒った様な表情を浮かべた。


「〜〜〜っ手ェ出せってんだよ!!クソが!!!」

「あっ、ちょっ…爆豪くんっ!!」


彼の手が私の手を乱暴に捕らえて、指先が絡み付き、引き寄せられる。
私の抗議の声なんて聞こえていないかの様に、こっちの事なんて御構い無しにズンズンと勝手に人波を掻き分けて突き進んで行く。

私はただ彼に手を引かれて連れられるまま、彼の背中に着いて行く事で精一杯だった。
固く結ばれた指先が、密かに熱を持ち始める。
さっきまで皆と逸れてしまうと一人で焦っていたのが嘘かの様に、今では言い様のない安心感が胸を占めている。そして、それと同時に不思議と言い知れないもうひとつの感情が私の中に湧き上がったのだった。


人波を抜けた先、道幅が広くなった道の端の方で、皆が待っていてくれた。


「あ、苗字さん、かっちゃん!」


緑谷くんが私達に気付き近付いて来る。
爆豪くんはそれに舌打ちをして、皆に気付かれるより早く乱暴に私の手を離した。
その事に何とも言い様のない寂しさの様な感情を抱いて、私は先程まで彼と繋いでいた己の掌を見つめ、「…??」を浮かべる事しか出来なかった。


「どうしたん?手に何か付いてるん??」


自分の掌を眺めていたらお茶子ちゃんに不思議がられて「ううん、何でもない、多分気のせい!」と笑い返した。うん、うん、多分気のせい。

彼の事を自然と目で追い掛けてしまうのも、

煩いくらいにドキドキと胸が高鳴っているのも、

あの時の感触を思い出して顔が熱くなるのも、


多分、多分、全部気のせい。


ドキドキと高鳴る心臓に、彼と繋いでいた掌を重ねた。
夜空に打ち上げられた花火を見上げながら私は全くそれ所では無かった。皆の歓声が遠くに聞こえる。
チラリッと少し離れた位置にいる貴方を窺い見て、またドキリッと心臓が跳ね上がった。

だってまた私は貴方と目が合ってしまったのだから、今度は私が、耐え切れずに顔を逸らす番だった。