放課後の眠り姫 相澤先生夢、生徒設定(所属は考えて無い) 夕暮れ時 放課後の生徒が居なくなった校舎 昼間の生徒達の声で溢れた騒がしさとは裏腹に、放課後のこの時間は“誰も居ない”と言う静けさに満ちていた。 いや、実際には、私は此処に居るので“誰も居ない”という表現は可笑しいのかも知れないが、何故かそう錯覚してしまう程、放課後の校舎とは静まり返っているのだった。 特にこの図書室と言う場所は、普段から静かだが、今は余計にその鳴りを潜めて居る様だ。 そしてその静かな空間には、私以外の“先客”が存在している。 「・・・またか…」 そう呟いて項垂れた私に、目の前の“先客”は我関せずと言った感じで眠り続けている。 そう、眠り続けているのだ。 「もう、勘弁して下さいよ、相澤先生ぇ…」 私の目の前でスヤスヤと眠りこけているのは、ここ雄英高校、ヒーロー科の講師である相澤 消太先生だ。 またの名をイレイザーヘッド。 「ヒーローがこんな事で良いんですかー?」 ツカツカと近付き、少し大きめの声を掛けながら、ツンツンと眠りこけている彼を突いてみるが反応は無い。 ……もし私が敵- ヴィラン -だったらどうするつもりなんだこの人…。 「あーあ、またこんなに散らかしちゃって…」 見ると周りには積みに積まれた本の山 きっと、調べ物でもしている最中に眠ってしまった(しかも、ちゃんと寝袋の中に入って)と思うのだが、もう少しこう…片付ける方の身にもなって欲しい。こんだけ積まれた山を誰が片付けると思っているのか…。 まあ、それが私の仕事である為文句を言うつもりはないが、かと言って時間外労働をするつもりも無い。 よってこの仕事は明日のお昼休みに回す事にする。 「取り敢えず、いつも通り書き置きと鍵を机の上に置いておこうかな…」 もう閉館時間はとっくの昔に過ぎて降り、後は私が最後の見回りと、鍵を閉めるだけなのだが、ここ最近、何故かこの相澤教師が良く調べ物に来ては眠って居る、と言った有様だ。 2、3度程注意の声を掛けたのだが、未だ、改善されて無ければそれは無意味と同じなので、最早言わずもがなで諦めている。 【おはよう御座います。 良く眠ってらしたので今日も起こしませんでした。お目覚めになったのでしたら、本はそのままで結構ですので、鍵と戸締りだけお願いします。】 そう手早く書き置きを書き、机の上にに乗せ、その上から図書室の鍵を置いた。 いつもなら、此処の時点でそのまま背を向け帰っているところなのだが、今日は何だが妙に相澤先生の事が気になってしまって、少し近付き前屈みになりながらジッと彼の顔のパーツひとつひとつを見詰めた。 「(黒くて長い髪)」 ボサボサだけど、 「(白い肌)」 無精髭生えてるけど、 「(形の整った唇)」 カサカサだけど、 「(意外とある睫毛)」 クマが酷いけど、 「(こうして見ると、何だがお姫様みたい)」 いや、男性だけど、 自分で自分の考えに、ノリツッコミを入れててクスリと笑ってしまった。 馬鹿な事考えてるな、との自覚は有る事には有るのだが、いかんせんやってて少し楽しくなって来てしまっている自分がいる。 あと少し、もう少しだけの単なるタチの悪い悪趣味な悪ふざけだ 「ーーーーー」 彼の名前を呼ぼうとして口を開きかけたが、一瞬躊躇して、私はそのまま口を閉ざした。 もしこのまま彼の名前を呼んで仕舞えば、“悪ふざけ”で済まされるレベルでは無くなってしまうと思ったから、だから…… 「ーーー…っ」 …だから、コレは“まだ”悪ふざけの領域だ 彼の顔の両端に自分の手を置いて体重を支えながら、覗き込む様に近付いて、ゆっくりと瞼を下ろす、後数センチ、後数ミリで二人の唇が重なる瞬間 「ーーー何を、している…?」 ・・・どうやら起きていたらしい相澤先生に私の悪ふざけは阻止されてしまった、…残念だ。 私の唇と彼の唇の間に彼の掌が挟まれて、其れ等が重なる事は無かった。 「あ、おはようございます。相澤先生」 「聞かれた質問に答えろ、苗字、たった今お前は何をしようとしていた…?」 「何って、別に何も……」 「嘘を言うな」 ですよねー、そうですよねー 相澤先生に限って知らぬ存ぜぬで許される訳無いですもんねー、と、言うよりこの状況で『何も』と嘘を言って騙される方が可笑しいですもんねー。 だから私は真実を言う、 ほんの少しの嘘を交えながら… 「本当に何も無いですよ。ただ少し、無防備に眠っている相澤先生って何処まで近付いたら起きるのかなーって思っただけです。」 「…………………。」 ああ、物凄く疑ってらっしゃる。 そりゃそうだ、いつもならサッサか帰る私が珍しく彼の顔を拝んでいたのだから、しかも超至近距離で、唇重なるスレスレで、そりゃあ疑いたくもなるってもの… でも事件は未遂で終わったし、めでたく彼も起きた、ならば私がやる事は後1つだけ 「まあ、そういう事なので、私は先に帰ります。あ、戸締りよろしくお願いしますね?」 彼の顔の両端に付いていた手を退けて、パンパンと払いながら立ち上がる。 「おい、苗字!」等と言っている彼の返事を待たずして私は踵を返し、何事も無かったかの様に帰路へと着いた。 眠り姫は王子様がキスをしたら目覚める、と言う。 だから、貴方も私がキスをしたら恋に目覚めてくれないかな…? なんて乙女チックでメルヘンチックで短絡的で頭の可笑しな事を、ほんの少し、ほんの僅かばかり、考えただけ… 本当に下らない考えだと思うけど…ね。 でも、そんな下らない考えに縋らないと自分の想いも伝えられそうにない私は、それ以上に下らない、どうしようも無い存在、なのかもしれない。 明日、貴方に出会った時、私はいつも通りの態度をしていられるだろうか…? 密かな不安と僅かばかりの期待を胸に今日はもう眠りにつこうと思う。 |