素直になれない私の恋


※軽い喘ぎ声あるので苦手な人は注意です。


私がここ、クローバーの国に来てから、

どれだけの時間がたっただろう…?

分からなくなるくらいには時間は、時間帯は変化している。そして、変化したのはそれだけじゃない。
私の心境、私達の関係、夢魔と余所者、上司と部下、それだけの関係だったのに……

いつの間にか変わってしまった。


もう2度と、

恋なんて厄介なモノはしないと決めたのに・・・・



*素直になれない私の恋*



クローバーの塔、ここでは今日もいつもと同じ日常が送られていた。
山積みになった白い紙、忙しなく働く人々、そして…


「もーうやめだっ!私は疲れたんだ!!休憩が欲しーいっ!!」

「ナイトメア様、もう少しで休憩ですから、頑張って下さい」

「何ぃ?もう少しだあ!?お前の“もう少し”は宛にならないから嫌だ!!
それに私は偉いんだぞ!偉いんだから休憩くらい好きな時に貰ったって構わないだろ!!!」

「はい、ナイトメア様は偉いです。凄いです。ですので、そんな偉いナイトメア様は次の次の時間帯まで頑張って仕事をして下さい。」

「お前!そんな棒読みの言い方で私が納得すると思ってるのか!!?そう思っているのなら、心を読ませろ!心を!!」

「はいはい、それはそれは心の底から、海よりも深く尊敬していますし、思っていますので仕事をして下さい」

「そんな見栄すいたウソを言うな!!」

「ウソではないですよ。仕事して下さい。」

「言葉の最後に一々『仕事をして下さい』って付けるなーー!!」


「(そんなに言われたくないなら、仕事すればいいのに……)」


等と思いながら、自分の目の前の資料を分別していく


「(ナイトメアって変なところで子供よね…。あ、変なところって言うよりも全てが子供……?)」


「き、君までそんな事を言うのか……」


私の心を読んだらしいナイトメアがプルプルと震えながら(多分体調が悪いせいだろう)こちらを見ていた。


「あら?読んでたの??っというか読まないでよ…」

「“読んでた”ではなく、“読めてしまう”んだ…。それにしても、全てが子供って…、ううっ…君は恋人に対してそれは、あまりに酷い言い様ではないか…?」

「子供っては本当でしょ?グレイと一緒に居ると尚更子供っぽいわよ、貴方。それに私は恋人って認めた訳じゃないから…」

「ううっ酷い、酷いぞーアリスー…
うっ、気分が悪くなってきた…ゴホゴホッ…」


酷い酷いと繰り返しながら、彼、ナイトメア=ゴットシャルク。このクローバーの塔の主は吐血をし出す。


「ああ、大丈夫ですか?ナイトメア様…」


と、ナイトメアの背中を擦りながら、綺麗に吐血された血を拭っているのは、彼の補佐で右腕のグレイ。グレイ=リングマーク。


「だから、あれ程病院に行きましょうと申し上げたのに…」

「絶対に嫌だっ!!病院なんて私は死んでも行かないからな!!!」


「(死んだら意味がないでしょうが…)」


と、一人心の中でツッコミを入れているのが、私、アリス=リデル。
今はこのクローバーの塔で、住み込みで働かせて貰っている。


「だったら責めて、薬だけでも飲んで下さいっ!!」

「それも絶っ対に、嫌だっ!!そんな苦くて恐ろしいモノ、飲んだらきっと死んでしまう!!」

「治すための薬なんだから、死ぬ訳ないじゃない…」


もう、一人で(心の中で)ツッコミを入れるのが我慢出来なくなったため、私は思った事を口に出す。


「いーやっ、そんなの分からないぞ!飲んだらその瞬間劇薬になるかもしれないだろ!!」

「そんなモノ、グレイが出す訳ないでしょ!!!」

「そんな事分からなr…っゲホッゴホッゴ…」


ーー!ブシャアァァァッ!!


「ぎゃあぁぁぁぁ!!!?」

「ナ、ナイトメア様!!?」


ナイトメアはその言葉を言い終わらない内に、先程の比じゃないくらいの大量の血を吐血した。
そして、その被害はナイトメアの目の前に山積みになっていた資料に飛び散り…、言わずもがなな、悲惨な現状へと一変した…。

ああ、流石にこの日常の様に吐血する光景を見慣れてきたと、思っていたのに……

まだ初な、まだこの世界に慣れていない自分が居たなんて、私は初めて知った。


『まだ、私はこの世界では“余所者”…か…』


その後、ナイトメアは自室のベットへと運び込まれ、グレイ達優秀な部下達はナイトメアが残したモノの後片付けに追われた。
そしてベットに運び込まれてもなお、私とナイトメアの地道(笑)な攻防は続いていた。


「絶っっ対に、それは、それだけは飲まないからな!!!!」

「そんな状態で虚勢を張るんじゃないわよ!!ほら、飲んで楽に成りなさい!!!」

「き、君っその言い方は尚更アブナイ薬っぽいぞ!!!」


グレイは血塗れになった資料を片付けるとか、後処理をするとか何とかで今は居ない。


「君になら、ナイトメア様のお世話も安心して任せられる…。よろしくな…」


と、少し窶れた(と言うより呆れや、疲労に近いだろうか?)様子で、私の両肩をポンと叩きながら出ていった。
そしてその際に、


「ああ、そうだ。出来ればこれをナイトメア様に飲ませてくれないだろうか?無理はしなくていいから…、それじゃあ、ナイトメア様を頼むよ……。」


【これ】と言って渡されたのは、今続いている攻防の火種となった。
薬である。もちろん危なくない方の。

頼まれた、のだが・・・・

先程からナイトメアが相変わらずこの調子で一行に薬を飲んでくれない(いつもの事だが)のだ…。


「だーかーらっ【アブナイ薬】じゃないってばっ!!」

「だ、だとしても、私にとっては苦いってだけで十二分に【アブナイ薬】だっ!!」

「もーっこういう事に対しては頑固なんだからーっ!」

「こういう事ってのは聞き捨てならないぞ!!私はこういう事じゃなくても、威厳があり、頑固で、決意が固い、良い男なんだからなーっ!!」

「そういう事は薬が何も言わず一人で飲める様になって、病院にも平気で行けて、元気に成ってから言いなさいよ…」

「うっ…だ…、だとしてもだっ!!
 もういいっ!私は寝るっ!!」


何も言い返せないのか、寝ている布団を頭の上まで被ってプイッとそっぽを向いてしまった。


「ちょっとナイトメアっ!!」

「…………。」


あーあ、拗ねちゃった…
こういうところが子供だって言うのよ。

仕方ない、この手だけは使いたくなかったけど・・・。

私はひとつ溜め息をつくと、ナイトメアが寝ているベットの端に座った。
ギシッと、ひとつスプリングの効いた音が響く


「ナイトメア…」

「……。」


ナイトメアのサラサラの髪の毛を撫でる


「ナイトメア…」

「…………っ」


ナイトメアの耳元へと口を近付け、囁く


「……好きよ…」

「っ!!!?」


そう小さく囁くと、彼は顔を真っ赤にしてガバッと上半身を勢いよく起き上がらせた。


「き、きききききききみっ…君は…っ……」


顔を真っ赤に声を上擦らせ、時たま口をパクパクするナイトメアについ笑ってしまった。

だって、こんなに可愛いんだもの…

確かに私も少しは頬を赤くしていただろうけど、このナイトメアの赤みに比べたら増しな方だ。
そして、ここから一気に畳み掛けるっ!


「ナイトメア、私は大好きな貴方の体を心配して言ってるのよ…?」


自分でも気持ち悪いくらいにあざとく、わざとらしく、上目使いで言う。
 

「うっ、うぐぬぬ…っ」


顔を真っ赤にして、頭から毛布を被り、唸っている。


「ねぇ…ナイトメア…」

「うっ!!」


それでも、どうしても頷きたくないのか、「ううっ」とか「うぐ…っ」とか赤くなりながら唸るだけだ。
これだけじゃやっぱりダメか…、ならば奥の手を…っ


「ナ、ナイトメア…ッ!」

「アリス??」


今までの私の態度と明らかに違うのをナイトメアも察したのか、少し顔の赤みが引き、毛布から顔を覗かせて不思議そうに見詰めてくる。
あー、これを自分で言うのは、かなり恥ずかしい・・・


「げっ…元気になって私に、プロポーズしてくれるんじゃないの……?」


緊張と羞恥で少し声が上ずってしまった。

それに顔だって…

触らなくても分かる。
心臓だって凄くドキドキ言ってる。


「アリ…ッ!!?」

「ああぁーっ!やっぱりダメっ!!恥ずかしいからさっきの無し!忘れてっ!!」

「忘れてって…、言われても、その、だなぁっ!」


あまりに恥ずかし過ぎて、ナイトメアが何か言う前にその声を遮ってしまった。
無理無理無理無理無理っこんなの私じゃないっ!!


「と、取り合えず元気になりなさいって事が言いたいのよっ!!分かったら、さっさと薬を飲みなさいよっ!」


それだけ言うと、ナイトメアの頬に薬を突き付け(たて)た。
それはもう強い力でグリグリと…、多分後であとが残るな…。


「ちょっ、おいおいおいアリスっ!
 そう言ってくれるのは嬉しいが、その、ちょっと痛いぞっ!もう少し優しくだなあ…!!」

「うっ、うるさいわねっ!いいからさっさと飲みなさいよっ!!」

「くぅぅぅっ、君がそう来るなら、こっちにだって考えがあるんだぞっ!」

「……えっ??」


気が付くと、グイッとナイトメアに腕を引かれて、ナイトメアの胸の中にスッポリと収まっていた。


「はあ…、やっと大人しく成ってくれたか……。
 アリス、あれ、かなり痛かったんだぞー・・・;」

「…………っっ」


掌から薬が零れ落ちて、二人の乗っているベットの上に散らばった。
それを目の端で捉えながら、私は、ただその光景を見詰めていた……

だって、そんなの気にしている余裕なんて、

―――今の私には、ないんだもの・・・。


ナイトメアの温もりが、

ナイトメアの匂いが、

ナイトメアの腕が、

ナイトメアの声が


ナイトメアの―――、全てが・・・


私を捕らえて離さないから……

頭がクラクラする。
心臓がドクドクと早鐘を打っている。


「おーい、アリス…?アリスー??
 ……っ!!?アリス、顔が真っ赤じゃないか!!大丈夫なのか!?熱があるんじゃ……っ」


いつものナイトメア程じゃないけど、私も熱に浮かされているらしい…
たったこれだけの事に取り乱すなんて、らしくないのに……


「アリス!!アリス!?大丈夫か!!?」


ナイトメアが何か言っているのに、それを熱に浮かされた頭が理解してくれない。
今の私には熱がある…そういう事にしておこう…。

だから、これは熱に浮かされた私がとった。

最高に滑稽で、最悪に陳腐な、
頭のおかしな行動なのよ…


「おい!アリ―――ッ…っ?!!」

「んっ…」

「ふっ…ぁ…っ…アリ、まっ」


ナイトメアは瞳に涙を溜め潤ませ、顔を真っ赤にしながら必死に懇願してくる…


「(なんて乙女な反応してくれるのよ…)」


その姿はさながら恥じらう乙女…
可愛らしいったらありゃしない……


「ナイトメア…もっと……」

「んんっ!!」


唇を押し当てるだけの行為から、舌を侵入させる行為へ…

もっと、もっとと、彼を求める…

いつもの私なら出来なかったであろう行為
いつもの私は素直じゃないから…


「うっ…は、んぅっアリ…スゥ……」

「ん……っ」


唇を離せば、二人の間を銀の糸が繋ぐ
そして同時に、ナイトメアの唇からもそれは零れ落ちていた。


「(…っ…色っぽいなぁ……)」


その姿に目を奪われる。
その姿は妖艶で色っぽくて、まさに【夢魔‐ナイトメア‐】の名に相応しい様に思えた。


「(あ、でも妖艶で色っぽいって言ったら【淫魔‐インキュバス‐】ってのもありかも……)」


「違あぁぁぁうっ!!!私はそんないかがわしいモノじゃないっ!!!」

「あら?もう復活したの??」

「き、きききき君は、なんてなんて……っっ」


思考の復活したらしいナイトメアが大声で私の思考を遮った。
そして、大いに混乱しているらしい

当たり前だ。

いつもの私だったら、こんな積極的な事はしない。
これは、熱に浮かされた、可笑しな【私】がした事なんだから…

ナイトメアはいつまでも「女の子なんだから慎みを持ちなさい」とか「こーゆーのは男の役目」とかそんな下らない事をしどろもどろに、恥ずかしそうになりながら、ブツブツ言っている。

……聞いていて正直腹が立つ。

なんだか、差別されているみたいで…


「だから、分かったか?こーゆーのは男からするモノで……」

「…………」

「なっ、なんだ、その意味ありげな視線は…っ」

「…………女の子だって……っ」

「……え…?」

「女の子だってやるときゃやるわよ!!」

「え?!!わっ!!ちょっ、ちょっとアリ……わあぁああぁぁぁぁぁ!!!」


ーーーードサッ…

上半身を起こしていたナイトメアの体を押し倒し、上に跨がり、こんな顔を見られたくなかったためナイトメアの耳元に口を寄せ囁いた。

その行為にナイトメアはますます顔に熱を集めていく


「どう?驚いた??」

「っっっ!!!!??」

「私はこーゆー事しないって思ってたでしょ?」

「〜〜〜〜っ」

「女の子だからって甘くみないで……」


私は悠然と、普通を装おって呟いていたが、実際は心臓が早鐘を打ち過ぎて、破裂してしまいそうだった…。
手探りで、同じベットの上に散らばった薬を一つ掴み取り、ナイトメアの口元の前に翳す


「はいっ、口開けて!薬を飲んでもらうわよ!!」

「〜〜〜〜っ!!それだけは絶っ対に嫌だっ!!!!」


バッと病人とは思えない素早い動きでナイトメアは、自身の口元を押さえた。


「ちょっと!それだと薬が飲めないじゃない」

「飲めなくていーんだっ!それに私は、飲みたいとは思わないしなっ!!」

「元気に成りたくないの?」

「う″っ!!」

「元気に為ってプロポーズしてくれるって言ったの何処の誰だったかしらぁ〜??」

「う、うぐぅぅぅっっ!!!」


先程の繰り返しの様な気がするが、まあ、こちらの方が進展はあるだろう。

なんて言ったって今の私は優勢なんだから…

ここで、甘やかしたらダメよ、アリス!!


「少しは甘やかしてくれ!!!!!」


どうやら心の声を読んだらしい。
いつも読まないでって言ってるのに…っ


「どうやったって聞こえてしまうのは仕方ないだろう!君の声は他の誰よりも聞こえてしまうんだから…」

「だったとしても、聞かない様には出来るでしょ?」

「それは…まあ、確かに…出来る事には出来るが……」

「だったらそうしてよ」

「………っき、君の声が聞こえないのは、結構寂しいんだぞ…っ!」

「……え…。」


耳を疑った。
あのナイトメアがこんな甘い台詞(いや、それは私からしてみれば甘い台詞って事で…)を言うなんて…


「(………………あのヘタレなナイトメアがっ!!)」

「そこぉぉぉぉっ!!驚くところが違うだろっ!!!」

「うるさいわねぇ!!そんなに飲むのが嫌だったら、こっちにだって考えがあるんだから!!!」

「………え?あの、アリ…っ」

「…静かにしなさいよ……バカ…」

「アリ――・・・んむっ」


私は薬をひとつ口に含むと、ナイトメアの頭を固定してキスをした。
案の定ナイトメアは顔を真っ赤にしていて…、私も、彼に負けないくらいには、赤かっただろう…。


「(好きよ…ナイトメア……
 だから、だから、元気に成ってね…)」


「うっ!く…ふぅ…っ」


思考を読んだらしいナイトメアは、グイグイと私の侵入を阻んで抵抗をしていたのに、抵抗を止め、自らその薬を飲み込んだ。


「何よ、やれば出来るじゃない…」


作戦が成功した私は上機嫌だった。
ナイトメアは数回ゴホゴホと咳をし、自身の口元を手で拭った。二人の唾液を……


「〜〜〜〜っそうだ!私、やろうと思えば、何でも出来るんだからな!!偉いんだからなっ!!!」

「はいはい、良くできました〜」


頭を撫でると「子供扱いをするな!!」と怒られたが、そんなつもりはない。
だって、子供にはあんな事しないもの…


「………ア、アリス…っ」

「ん?何??」

「もう一回……その…しないか…?」

「え……?」

「だ、だから、もう一回っ…んむっ…んっ」


ナイトメアの言葉が言い終わる前に口を塞いだ。
本当にどうしょうもなく可愛い人…


「んん…ふ…っ」

「ん…っ…」

「んっ…ハァ…ナイトメア…」

「はっ……アリス…ッ」


二人してお互いを求め合って唇を重ねる。
漏れる吐息も、混ざり合う唾液も、絡み合う視線だって…

貴方じゃなきゃダメなの…

貴方でないと、ダメになってしまったの…


「ナイトメア…」


貴方は前に、


『夢魔は悪魔よりも恐ろしい存在だ…』


って、言ったわね?
あの時は『嘘だ』と笑って否定したけど、今なら…

今なら、それが分かるかもしれない。

だって貴方はこんなに、こんなにも、

人を、私を魅了してしまうんだから…

本当に恐ろしいわね。


病弱で、病院が嫌いで、薬も嫌いで、直ぐに吐血して、そのクセ見栄っ張りで格好良いって理由だけでコーヒーを飲んだり、煙草なんかも吸って……

本当に、どうしょうもない人なんだから…

でも、そんなどうしょうもない人を好きになった私は、もっとどうしょうもない人間だと思う。


薬の効果なのか、はたまた気絶しただけなのか…
ナイトメアはあの後寝息をたてて眠ってしまった。


「(綺麗な寝顔……)」


死人みたいなんて言ったら確実に怒るだろうから、それは伏せておく。


「ナイトメア…」


名前を呼ぶだけで、満たされる気になる私は、やっぱり重症で……


「さっき言った事、全部本当だからね…?」


眠る貴方にしか、真実を言えない私は、素直になれない弱虫…

でも、そんな私を貴方は全て知っているんだろう。

知っていて敢えて、知らないふりをしていてくれる貴方を、やっぱり大好きだと思った。


「……早く元気になりなさいよ…」


チュッと、ナイトメアの額に口付けを落とし、貴方が目覚めるまで待つ事にする。


「……でも…、もう少しだけ、このままでも、良いかな?」


どこか素直になれない私は、やっぱり可愛くない事しか言えないのでした。


‐end‐
 

BackTOP


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -