千尋が出て行った後


▽風早視点



「…………。」


フッと目を開け起き上がる。
そこには愛しい千尋の姿はなく、机の上にある自身のメガネがいるだけだった。


「……千尋。」


ソッと千尋が触れて、キスをしてくれたところに触れてみる。
そこには何も残ってなどいないのに、千尋が触ってくれただけで、そこに何か価値がある様な気がした。

実は風早は最初から起きていたのだ。

いや、正確には千尋が自身のメガネが取った辺りから起きて、千尋の行なった事を気配で感じていたのだ。

年甲斐もなく、ただそれだけの事なのに口元に笑みが浮かび、ニヤついてしまう。


「千尋…」


ここにはいない愛しい名を呼ぶ
それだけで満たされるから不思議だ…


「千尋…」


何度も名を呼び、嬉しさに浸っていると、


「あんた何やってんの?」


これでもかと言うほど呆れた声が扉の辺りから聞こえてきた。


「ああ、那岐おかえりなさい」


俺は嬉しさの余り、そのままの笑顔を那岐に向けた


「…………。
あんた、変なもんでも拾い食いした…?」


ドン引きした声をただただぶつけられる。
ハハッこんなの忍人に比べればまだましな方ですね。
 

「そんな事してませんよ。さあ、今夜の夕食を作りましょうか!」

「僕は手伝わないからね、じゃ、部屋に行ってる。出来たら呼んでよ」

「そんな事言わずに、手伝って下さいよ」

「僕はそんなめんどくさい事しないの、千尋にでも手伝わせればいいだろ?」

「あ、いえ、千尋は今悩んでると思うので……、まあまあ、ここに居るだけでいいので居て下さいよ」

「あんた、千尋となんかあったの?」

「いや、そういう訳ではないのですが…」

「ふーん…、まあ、ここにいるだけならいいよ。ただし手伝いはしないからね」

「あはは、手厳しいですね。でも、ありがとうございます。それでは作業に取り掛かりましょうか、夕食の時間が遅れてしまいますからね」


ソファーから降り、台所へ向かう。

今日の夕飯は何にしましょうかね?


- end -
 

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