『優しい弁慶(ぼく)』と言う仮面
▽弁慶視点(?)
――闇・・・
―― 一面の闇・・・
―― 一面の悲しいくらいの闇・・・
僕はこの戦が終わるなら、いくらでも汚れ役をやろうと思った。
――闇は僕だ。深く、暗く、光を寄せ付けない闇・・・
戦が終わるためなら犠牲など構うモノか、使えない者なら切り捨てるまでだ・・・
――闇の僕は、仮面を着けよう『優しい弁慶(ぼく)』と言う仮面を――・・・
悲しむ心があるなら、それすらも邪魔だ・・・
相手(敵)に情けなど必要ない、そして使えない者にも――・・・
そう思っていた、君に、出逢うまでは――・・・
「望美さん……」
「弁慶さん?どうしたんですか?」
いきなり弁慶がボーッとしだしたのに気付いた望美は、弁慶の名を呼んだ。
源九郎義経 が兄 源頼朝の代わりに率いる源氏の軍の「軍師」をしているのが、武蔵坊弁慶。
彼に後ろから抱き締められているのが、源氏の神子そして龍神の神子をしている 春日望美。
彼女は、龍神の神子に選ばれ異世界からやって来た。
春日望美は何も知らずこの世界にやって来た時、弁慶達と出逢ったのだ。
「いえ、何でもありませんよ。ただ、月がとても綺麗でしたから……ついね。」
「え?……あ、本当だ!!すごく綺麗」
「フフッ喜んで下さってよかった、でも、君の方が何倍も綺麗ですよ。望美さん…」
「…っ!?もー、弁慶さんっ!!冗談はやめて下さい!!」
恥ずかしがって耳まで真っ赤にする望美に弁慶は優しく微笑みかけた
「冗談ではありません、本心ですよ」
君のおかげで、僕が前から諦めていた“光に手を伸ばす事”が出来ましたから…
そんな微笑みをたたえる弁慶に望美も幸せそうに、微笑んだ。
「ふふっ、こっちの世界に来て、戦や、辛い事がたくさんあったけど、私こっちの世界に来てよかった…」
「ふふっ、僕も君がこの世界に来てくれて嬉しかったですよ。こうして君に出逢えたのですからね」
と、言い望美の頬にキスをする弁慶を望美は、嬉しいような恥ずかしいような困ったような気持ちで見詰めた
「っ!?弁慶さんったら…っ!」
「ふふっ……ねぇ望美さん?」
弁慶は先程とは違う、真剣な目付きになって望美を見詰めた。
「……はい。何ですか?」
望美もその瞳の真剣さに気付いたのか、彼女も、真剣な顔で弁慶を見詰め返した。
「もしこの先、僕が命を落としても、君だけは、絶対に守り通してみせますから…だから、幸せになって下さいね。」
「え……?」
弁慶はとても寂しそうな顔で話していた。
それはまるで、この先、自分が死ぬのを覚悟しているかのような顔で―・・・
「……。」
そして二人の長い沈黙の後、先に口を開いたのは望美だった。
「無理だよ…、そんなの……」
「え……?」
「だって弁慶さんは死なない!ううん、私がそんな事絶対にさせない…っ!!」
彼女の凜と、ハッキリとした声が部屋に響いた。
望美は今まで「白龍の逆鱗」を使い、いつくもの時空を乗り越えきたのだった。
大切な人達が死んでしまった運命を上書きするために、いつくもの時空を超えた。
そして今回も、もし弁慶が危ないのであれば、自分が弁慶をちゃんと説得して二人で幸せになれる未来を自分の力でつくるのだと、望美は思った。
「それに、弁慶さんがいなきゃ私は幸せにはなれないの!!」
「……っ君にはかないませんね。
フフッ、望美さんが言うと本当になってしまいそうだから、本当に不思議な人だ…。ありがとう、変なこと言ってすみませんでした。」
瞳に名一杯涙をためた望美に手を差しだし、瞳の涙を拭いながら弁慶も望美の心を秘めた力を感じとったのか、そうこたえたのだった。
やはり、君は光だ。この空のように暗闇の僕を照らし、優しく導く月のような――・・・
弁慶は改めて思った。
だからこそ君がとても愛しい、君を、望美さんを守りたいんだ僕は……
とても優しい顔をする弁慶に望美は――・・・
「弁慶さん、二人で乗り越えていきましょうね!」
「二人」と言う言葉をつけて、弁慶の頬にやさしくキスを落とすのだった。
大切だからこそ、守りたい――――
- end -
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